2008年11月7日金曜日

大統領選以外の選挙結果

首席補佐官も決まり、当選後最初の記者会見もして、オバマ政権への移行準備は早速始まっています。選挙後も株式市場はまた下落し、失業率はさらに高まって、経済状況は実に暗いので、これからの4年間、オバマ政権への課題は本当に大きいです。

オバマ氏当選に世界の注目が集まっているのは自然なことですが、今回の選挙には大統領選以外にもいろいろな側面がありました。前回の投稿でも言及した、同性婚を禁じるカリフォルニア州の住民投票Proposition 8は、52%の票を得て通過しました。カリフォルニアの他にも、フロリダとアリゾナの2州ではより大きな票差で同様の住民投票が通過しました。この結果、40以上の州で同性婚をはっきりと禁じる法律ができ、同性愛者が合法に結婚できるのは、マサチューセッツとコネチカットの2州のみとなりました。カリフォルニアでは、既婚者と同様のさまざまな権利を認めるシヴィル・ユニオンは今後も継続されますが、アリゾナとフロリダではそれも認められません。カリフォルニア州では、黒人投票者のうち70%、ラテン系投票者の過半数がProposition 8可決に投票した(つまり同性婚合法化に反対した)という結果が出ています。全国の黒人投票者の95%、ヒスパニック系投票者の67%はオバマ氏に投票したというデータと合わせて考えると、「リベラル」「保守」といったラベルが、決して人種・経済・国際関係といった軸でだけきれいに整理できるわけではないことがよくわかります。

ほかにも、選挙前はほとんど知られていませんでしたが、フロリダ州では、アジア系アメリカ人への差別の歴史を払拭するための憲法改正についての住民投票が否決されました。これはなかなかややこしい歴史的背景があるのですが、要は、20世紀前半に、日本などアジアからの移民が土地を買い占めるのではないかとの懸念から、帰化不能な外国人(当時はアジア人移民にはアメリカ国民に帰化する権利がありませんでした)は土地を所有できないという法律ができたままになっていたものを、アジア人への差別を取り除くために憲法を修正する、というイニシアティヴでした。ところが、投票用紙に記載されたイニシアティヴ自体の表現が不明瞭だったこともあり、とくに非合法移民の流入を恐れる住民の多いフロリダでは、「非合法移民が国民と同じ『権利』をもつのは間違っている」と主張する人々が多く、このような結果が出ました。

そのいっぽうで、中絶により厳しい制約を加えることについては、カリフォルニア・コロラド・サウスダコタの3州すべてで住民が反対しました。マリファナの少量の保持を犯罪でなくすることについてはマサチューセッツで可決、マリファナの医療用の使用はミシガンで可決しました。人種や性に関するアファーマティヴ・アクションを州のプログラムから取り除く、という住民投票は、コロラドではごく僅差で否決、ネブラスカでは通過しました。といったように、オバマ氏に投票した人たちのなかでも、さまざまな問題については大きく立場が分かれています。なにしろ、大統領選そのものをとってみても、州ごとに与えられた選挙人数という特殊な制度をとっているからこそ、オバマ氏とマケイン氏のあいだには倍以上の差が出ましたが、直接選挙制度であれば、52%と46%の差でしかないわけで、それぞれの州のなかでも、またアメリカ全体のなかでも、イデオロギーや社会文化的価値観をめぐってたくさんの分断があります。アメリカの「統一」をかかげて勝利にいたったオバマ氏が、どうやってそれを実現していくか、期待が高まるいっぽうです。それにしても、オバマ氏の勝利演説のなかの、I will listen to you, especially when we disagree.という一文がとくに印象的でした。恋人や結婚相手にも、そう言ってもらいたいですね。(まず自分が言うことから始めたほうがいいでしょうかね。笑)