2009年9月22日火曜日

目指せ介護大国にっぽん

NHK(私が住んでいる家には、BSもなにも見られないとてーも古いアナログテレビがあるだけで、前の投稿でも書いたように民放は見事になにひとつとして見るものがないので、NHKばかり見ているのです)の「ホリデーにっぽん」で、「僕がそばにいますから・インドネシア人介護奮闘記」という番組を見ました。インドネシアからやってきて、佐賀の介護施設で働きながら、介護福祉士の資格を取ろうと勉強している若者の生活を追ったものです。番組の視点はとても温かく人間的であると同時に、日本の介護の現場の抱える問題にも冷静な目を向けた、とてもよくできた番組だと思いました。社会の高齢化とともに介護の需要がどんどん高まるなか、供給は間に合わず、看護士などの資格と経験をもった労働者をインドネシアなどの国から受け入れるという試みが日本ではなされるようになってきていますが、日本語で介護福祉士の試験に合格するというのはこうした多くの外国人にとっては至難の業で、結局はしばらく労働だけ提供して故郷に帰るというケースも多く出ています。そのいっぽうで、病んだ老人は家族で世話をするのが当たり前で介護施設など存在しない社会からやってきたこうした若者が、日本の施設で暮らす老人と一生懸命コミュニケーションを交わし、心身ともに安らぎを与えようとする、その姿には、深く心打たれるものがあります。

私も、自分の家族の事情もあって、介護の問題は本当にひとごとではなく、自分のことについても、高齢化が進むことは必至の日本の将来についても、最近とてもよく考えます。

高齢化・少子化の流れは、そう簡単には変わらないでしょうし、現代の人々の仕事や生活のありかたからして、在宅介護はしたくてもできない家族が増えるばかりでしょうから、介護施設への需要、そして介護をめぐる福祉全般への需要は、これからどんどん拡大していくはずです。もちろん、移民や外国人労働者を大量に受け入れるという歴史や文化をもっておらず、外国人と接したことがないという人も多い日本では、肌の色も言葉も文化も違う外国人に、下の世話を含むきわめてプライベートな身の回りの面倒をみてもらったり、精神的に頼ったりするようなことには、多くの人が強い抵抗を感じることでしょう。でも、そんなことを言っている場合じゃない、という現実も、多くの老人とその家族に迫ってきています。

そして、短期の遊びやビジネスでさえ海外に行くというのは相当のストレスを伴うことなのに、言葉も文化も違う遠い外国に長期間滞在して、縁もゆかりもない町で、身体も動かず認知症もある、元気に回復することのない老人の介護をしようなどという、奇特な天使のような人々が存在するのだったら、そうした人たちを積極的に受け入れるばかりでなく、手厚い報酬と教育と職業訓練の機会を提供して、その介護士にとっても経済的・職業的に有益な経験になるような環境を整えるべきだと強く思います。

介護や看護といった分野での国際的な人の移動は、今に始まったことではありません。たとえばフィリピンでは、米国植民地化の歴史を背景に、20世紀半ばから、フィリピンで教育を受けた看護婦が大量にアメリカに渡り、現在のアメリカの医療においてフィリピン人の看護婦は欠かせない存在となっています。こうした看護婦の多くは、自分の家族を故郷においたまま何年間も、ときには十年以上もアメリカで暮らし、仕送りを続けています。先進国の収入と生活を手に入れるいっぽうで、搾取や差別を経験する看護婦も多く、労働争議も少なくありません。こうした歴史を考えれば、外国から介護士を受け入れれば介護の問題が解決するなどと単純には決して考えられません。(ちなみに、アメリカに渡ったフィリピン人看護婦の歴史については、『Empire of Care』というとても優れた研究書があります。)

ただ、日本における介護への需要拡大、そして世界における経済的不均衡が少なくとも数十年間は続くという現実があるのですから、だったらいっそのこと、介護のニーズという状況を、「対処しなければいけない問題」としてでなく、より肯定的にとらえて、日本は「介護大国」を目指せばいいのではないかと思います。身体的にも精神的にも弱っていく人々が、尊厳と人間性をもって人生の最後を送ることができるような介護のありかたを徹底的に追求し、家族があたたかくそれを見守ることができるような福祉制度を整備する。それを国の最優先事項のひとつにして、政府も民間も介護の実践や研究に大量の投資をする。国内においても介護にかかわる人々を育てることに投資をする。希望者がいれば外国からも積極的に介護士を受け入れ、資格取得への援助を最大限にし、資格取得後も教育やトレーニングをふんだんに提供して、本人が帰国を希望すれば最前線の介護を故郷に持ち帰ることができるようにする。介護される側にとっても、する側にとっても、介護される人の家族にとっても、人間的で温かい社会だということで世界から注目されるような「介護大国」を目指すことは、国の考え方次第では不可能ではないと思いますが、どうでしょうか。