2011年1月17日月曜日

芸術支援を考える

今日は、潮博恵さんというかたにお会いしてきました。潮さんのウェブサイトで、私の『ヴァン・クライバーン 国際ピアノコンクール』をとても的を射た形で紹介してくださっているのを少し前に発見したのですが、その際に潮さんのウェブサイトを探索したところ、それだけで私はすっかり惚れ込んでしまい、「この人には是非会わなくてはいけない」と思って連絡をとらせていただいたのです。潮さんは、銀行勤務を経て、現在は行政書士のお仕事をしながら、日本のオーケストラなどの芸術活動の支援をなさっているかたです。近年はとくに、マイケル・ティルソン・トーマス率いるサンフランシスコ交響楽団(SFS)にたいへん入れ込み、芸術的に最高レベルの演奏をしながら、地域社会におけるオーケストラの役割やメディアを通した芸術活動を先進的な形で開拓しているにもかかわらず、日本の聴衆にはあまり知られていないSFSの活動を、ウェブサイトで多面的に紹介なさっています。私の著書を好意的に紹介してくださっているということは差し引いても、文化政策や芸術支援の日米比較を現在の研究テーマとしている私は、潮さんの活動にとても興味があるので、それだけでも是非お話をうかがいたいと思ったのですが、それに加えて、なんといっても潮さんのウェブサイトが素晴らしい。形式としても、見やすい、わかりやすい、妙に可愛らしくない(サイトの種類にもよりますが、概して私は可愛らしさを強調したようなウェブサイトを見るとイライラしてくるのです)。そして、コンテンツ面を特徴づけるのが、過不足ない情報量、ポイントを絞ったコメント、そして感性あふれる文章。私は自分のサイトを作るときに、かなり多くの人のサイトを見比べましたが、潮さんのサイトは私のなかではとても上位ですので、ぜひ見てみてください。

実際にお会いした潮さんは、ウェブサイトから想像したとおりの、魅力的で興味深いかたでした。SFSに興味を持って、「じゃあ今週末聴きに行こう」とだんなさまを誘っていきなりサンフランシスコまで飛んで行ったり、プラハでSFSを聴きに行った後でたまたま飛行機でティルソン・トーマスとSFSの事務局の人と乗り合わせたので、コンサートの感想を話しにいったのがきっかけでSFSの関係者と交遊ができたりという、驚くべき行動力と積極性に感服。私も行動力と積極性があると人にはよく言われるほうですが、潮さんは数ランク上です。潮さんが詳しく紹介しているSFS制作のKeeping Scoreというドキュメンタリー・プログラムは、私も数本観たことがありますが、これは本当によくできていて、私は夢中になって観てしまいます。アメリカの公共テレビで放送されるときには、ドキュメンタリー部分しか放送されないのが普通ですが、DVDだと演奏がまるごと観られるので、そちらがおすすめです。が、ドキュメンタリー部分はオンラインでも観られますので、ものは試しと思ってとにかく観てみてください。

というわけで、潮さんから、これからの私の研究におおいに役立ちそうな情報をいろいろ教えていただきました。クライバーン・コンクールについて学ぶ過程で、芸術と地域コミュニティの関係ということをたくさん考えるようになりましたが、社会が芸術を育むとはどういうことか、今後いろいろな視点から勉強していきたいと思っています。