2013年12月21日土曜日

『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?』および『ドット・コム・ラヴァーズ』書評・感想文募集!

私は今学期、学部長代理という役を務めていたのですが、昨日の教員会議をもってようやくだいたいの仕事は終わり、月曜日に書類処理を終え、冬休み中にいくつかの業務をメールでやりとりすれば、晴れてお役目終了となります。やれやれ、実に疲れる一学期でした。こういう役につくと、組織として日常的にこなさなければいけない諸々の事務作業に加えて、なぜよりにもよって今こういうことが起きるんだ、といった類の「問題」が次々と浮上し、その危機管理に心身を消耗します。なぜか今学期はとくべつそういった危機が多かったような気がしますが、もしかすると、自分が学部長でないときは知らないだけで、いつの学期にもこういうことが起こっているのかもしれません。ともかく、学部が崩壊することなく学期の終わりを迎えられそうなことに感謝。

さて、まるで関係ないですが、ふと思い立って、拙著『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?──人種・ジェンダー・文化資本』および『ドット・コム・ラヴァーズ―ネットで出会うアメリカの女と男 』についての、書評・感想文コンクールを著者みずから主催することにいたしました。

自分の本が新聞や雑誌に紹介されたり、ウェブサイトやブログに書評を書いてくださるかたがいたり、知人友人そしてときには未知のかたがメールやフェースブックを通じて感想を送ってくれたりするようになって、本の読みかたというのは本当に人さまざまなんだなあということを、深く実感するようになりました。書評や感想を読むと、どういうポイントに読者が反応するのかがわかるだけでなく、著者が意図していなかったものを読者が感じ取ったり考えたりしているのを知ったり、読者からの疑問・質問から多くのことを学んだりします。また、「ああ、自分ではこういうことを伝えようとしたつもりだったんだけど、あの書き方ではいまいち伝わっていなかったんだな」とか、「そうか、あのあたりが書き足りなかったんだな」とか、反省点も見えてきます。なにより、自分の本をきちんと読んで、わざわざ時間を割いて感想を文章にしてくださる読者、それをいろいろな媒体に載せて他の人たちとシェアしてくださるかたがたがいる、というのが、著者としてはなによりありがたく、読者の反応をそのように手応えとして感じられるのが嬉しいのです。というわけで、10月発売になった『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?』および、2007年発売の『ドット・コム・ラヴァーズ』について、書評・感想文を募集いたします。(ちなみに、『ドット・コム・ラヴァーズ』は現在の在庫がなくなったら増刷にはならないそうです。(泣)今ならまだ手に入りますので、どうぞお早めにお求めください。)募集要項は以下のとおりです。

『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?』または『ドット・コム・ラヴァーズ』の書評・感想文(両部門への応募ももちろん歓迎です)

形式自由・字数制限なし (すでにブログなどで書評や感想文を書いてくださっているかたの文章も対象内といたします。その場合は、文章のファイルやリンクをお送りください。その場合は他薦も可です。)

審査は、本の理解が核心を突いている・なにが面白かったか、なにに驚いたか、なにを学んだかなどを具体的に説明している・鋭い疑問や批判を提示している・本の内容に新しい視点をもたらす・読者自身の感じ方を素直に記述している、などなど、複数の基準や視点を組み合わせておこないます。審査員は著者のこのワタクシひとりです。ひとつ強調しておきたいのは、著者が審査員だからといって、本をほめればよいというものではない、ということです。本が気に入ったのであれば、どこがどう面白かったのかを具体的に書いていただければもちろん嬉しいですが、よい書評・感想文、とくに著者にとってもっとも勉強になる書評・感想文というのは、著者に考える題材を与えてくれるような文章です。本を痛烈に批判した文章でも、批判が的を得たものであれば、漫然とほめた書評よりも著者にとってはずっとありがたいものです。なにより重要なのは、読者が感じたこと・考えたことを素直に表現してあることです。

トップ受賞者の書評・感想文は、このブログで紹介させていただき、その書評・感想文へのコメントをワタクシが書かせていただきます。副賞は以下のとおり。

『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?』部門

受賞者の居住地で受賞から1年以内に開催される、著者オススメの「アジア人」音楽家による演奏会のチケットを2枚差し上げます。ただし、受賞者の居住地によってはこれが不可能な場合もあるので、その場合は、本に登場する「アジア人」音楽家のアルバムを著者が5枚厳選してプレゼントいたします。

『ドット・コム・ラヴァーズ』部門

著者みずからが受賞者を「デート」にお連れいたします。ただし、著者はホノルル在住、日本への帰国はほぼ一年に数週間ですので、有効期限は無期限、実現可能なときに世界のどこかで、ということにいたします。ご了承ください。

応募締切 2014年2月28日(金)
応募先 件名に「書評・感想文コンクール応募」と明記の上、メールの添付ファイルとしてmyoshiha@hawaii.eduまでお送りください。
結果発表 2014年3月中旬 このブログにて

ふるってのご応募を楽しみにしております。


2013年12月16日月曜日

American Studies Association, 対イスラエル学術ボイコット決議を採択

私が所属するおもな学会であるAmerican Studies Association (2014年7月からは、この学会の学術誌であるAmerican Quarterlyの編集本部がわがハワイ大学にくることになり、なんと最初の5年間は私が編集長を務めます)が、対イスラエル学術ボイコット決議を採択し、世界的に大きな話題を呼んでいます。今日のニューヨーク・タイムズはこの話題をトップ記事で取り上げています。American Studies Associationがニューヨーク・タイムズのトップ紙面で扱われるなどということは、史上初めてのことだと思われます。対イスラエルのボイコットという、ひじょうに複雑な問題が、アメリカにおいて、そして世界においてもつ意味の大きさを示唆しています。

「対イスラエル学術ボイコット」とはなにか?ひじょうに複雑なこの問題を一言で説明するのは難しいのですが、要は、イスラエル占領下のパレスチナ人研究者や学生たちが、学問の自由や基本的人権を侵害され、イスラエルの大学ではパレスチナ人研究者や学生がさまざまな差別を受けていることなどから、人種差別や植民地主義などを批判的に研究・議論しあらゆる形の社会正義を提唱するアメリカ学会は、パレスチナ人の迫害に加担しているイスラエルの大学や学術団体などと組織的レベルでの交流を拒否する、と表明するものです。ただ、この一文では説明しきれない要素がたくさんあるので、実際の文面をこちらでごらんください。

このボイコット決議が学会会員全員の投票に委ねられるまでの数ヶ月、学会の内外でひじょうに大きな議論が繰り広げられました。ボイコット決議は、ちょうど一年前に、学会内のAcademic and Community Activism Caucusという部会が、役員会に検討を申請したことから始まりました。部会が役員会に申請した決議は、内容にかかわらず役員会で検討すると学会の規約で決められており、規約にしたがって役員会は提出された決議の内容を丁寧に議論してきました。その過程で、決議に反対する会員たちが強い抗議を表明し、ボイコット反対の署名運動を繰り広げたり、高等教育全体にかかわる話題をカバーするChronicle of Higher Educationという媒体で名の知れたブロガーがボイコット決議を強く批判する記事を投稿(その後、このブロガーは修正された決議の文面を読み、この決議をめぐって学会がとってきた手続きなどを知って、立場を変更、決議を支持する投票をしています)したりしたことで、この話題は当学会の外にも大きく広がっていきました。決議に反対する人たちのなかには、検討されているボイコットの具体的な内容や、決議の文面を実際に読まずに、「イスラエルに対するボイコット」という行為に抗議している人も少なくないことが、抗議の内容から明らかでしたが、決議の文面を熟読した上で、パレスチナ人研究者や学生の学問の自由や基本的人権を支持するという理念には賛同するものの、ボイコット決議には反対する、という人もたくさんいました。ボイコットに反対する人たちのなかには、「イスラエル一国をとりあげてボイコットのような制裁措置をとるのは、反セミティズムである」「特定の国の大学や学術団体との交流をボイコットするのは、相手国だけでなくアメリカを拠点とする研究者の学問の自由を侵害するものである」「アメリカ学会とは学術団体であって政治団体や思想団体ではなく、このような問題についてボイコットといった立場を表明するのは組織の主旨に反する」といった意見から反対する人もいましたが、「イスラエルの大学には、イスラエル国家の対パレスチナ政策に強い批判をする研究者も数多くいるなかで、そうした人たちを敵にまわしイスラエルの大学や学者たちとの交流を阻止するのは、パレスチナ支持という目的のむしろ妨げとなるものである」「アメリカ政府がイスラエルに対して巨大な軍事的・経済的支援を続けているなかで、アメリカ学会が自国の政策を棚に上げてイスラエル、しかもイスラエルの学術団体を批判するのは偽善的である」などという意見から決議に反対する人も少なくありませんでした。(注:この段階での議論は、もともと部会から提出された決議の文面にもとづいたもので、以下説明するように、今回会員の投票にふされた実際の決議の文面は、こうした意見をふまえてかなりの修正を加えたものになっています。)そのいっぽうで、さまざまな立場からボイコットを支持する研究者や学生たちも、インターネットをはじめとする多くの場で次々と発言を重ね、議論が白熱していきました。世界各地で展開されるBDS運動(イスラエルの対パレスチナ政策への抗議として、イスラエルに対しボイコット・投資接収・制裁措置をとる運動)の一部として、国際的に話題も広がっていきました。

こうした議論を受けて、学会役員会は、私も参加した先月11月ワシントンで開催された年次大会で、この決議についてじっくりと議論し(学会誌の次期編集長という立場で、私は投票権はないものの役員会には出席しました)、この決議についてさまざまな視点から議論するフォーラムを4日間の学会のあいだに3回主催し、そのうちのひとつは、会員誰でも発言権をもつオープンフォーラム。このフォーラムが真に「オープン」であらゆる立場の人が自由にそして平等に発言できるものになるよう、さまざまな配慮や工夫がなされました。(発言したい人はフォーラム開始前に紙に名前を書いて箱に入れ、進行役がその箱のなかからランダムに名前を抽出する。発言者はみな一様に2分間以内の発言をする。などなど。)私はこのオープンフォーラムは最後の15分ほどしか出席できなかったのですが、そこでの発言や聴衆の態度をみるかぎりは、発言者はみなとても思慮深く、知的で、建設的でかつ情熱に満ちた発言をし(とくに大学院生による勇気ある発言が感動的でした)、聴衆はすべての発言に集中して耳を傾け、中傷・嘲笑・妨害などの行為はまるでなく、きわめて民度の高い議論だと思いました。私が実際に聞いた発言は、ボイコットを支持するものばかりでしたが、後から聞いたところによると、このフォーラムでは決議に反対する人による強い発言もあったものの、発言した人たちの圧倒的多数は決議賛成の立場の人たちだったそうです。

そして、このオープンフォーラムの翌日、役員会はふたたび会議を開き(これには私は不参加)、これまでの議論やフォーラムでの会員たちの発言をふまえて、次のステップを検討。その日2時間の会議では決定に至らず、結局、役員たちがそれぞれの拠点に散らばって行った後で数週間にわたり、メールや電話会議で審議が続けられたそうです。そして、それまでに寄せられたさまざまな意見をふまえた上で、決議の文面を修正し、決議採択の是非を会員全員の投票に付す、という決定が役員会全会一致でなされました。そして、投票した1252人の会員のうち66%が賛成、30.5%が反対、3.43%が棄権という、いわゆる「地滑り」的結果で、決議が採択されました。

人文・社会科学系の学会がこうした決議についてこれだけ白熱した議論を重ねるという状況、そして、この問題がアメリカ社会でどれだけ緊迫した議論を呼ぶかということは、なかなか日本ではわかりにくいかもしれません。私は、今回の決議は、とくに修正された文章は、歴史・政治・軍事などを専門とする研究者たちが各方面からの視点や意見を丁寧に検討した上で草案されたことが明らかな、立派な決議だと思います。私も決議を支持する投票をしました。ですから、決議が採択されてよかったと思いますが、それ以上に、私がもっとも強い帰属意識をもっているこの学会において、こうしたとても複雑な問題について、あらゆる立場の意見にきちんと耳を傾け、丁寧な議論を重ね、規約に沿った手続きを踏んで、民主的な方法でこの決議に至ったということに、一種の感動を覚えます。

学会のサイトで、決議にかんする情報や、この問題にかんしてのさまざまな人々の発言が読めますので、興味のあるかたはぜひ読んでみてください。いろいろな点で勉強になります。