2008年9月27日土曜日

Facebookふたたび

学期の真っ最中なので、忙しくてあまりブログをアップデートする時間もありません。今学期は、アメリカ研究入門(この分野の歴史や理論・分析手法の変遷を追う授業)の大学院ゼミのほかに、学部レベルの、アメリカ女性史の授業を教えています。女性史の授業は、ずいぶん前に一度教えたことがあるのですが、今回は内容をまるで変えて教えているため、一時間の授業のために八時間以上も準備するようなことを繰り返しています。もうこの仕事について十二年目になるのだから、もうちょっと効率的に授業の準備ができてもいいんじゃないかと自分で思うのですが、その点ではどうも成長が少ないようです。でも、女性史の授業はとても面白く、学生もとても一生懸命で、自分や自分の家族の話に引きつけて授業の内容を考えてくれるので、なかなかやりがいがあります。学生には、シングルマザーとして二人の子供を育てながら大学に通っている女性とか、かつてドメスティック・ヴァイオレンスの被害者で今は女性研究を専攻し卒業後は女性のための福祉の仕事をしようと思っている女性、40代になってから大学に通い始めて歴史を専攻しているが普通の授業では女性のことがほとんど出てこないのでこの授業をとることにしたという男性など、私立のエリート大学にはなかなか入ってこられないような学生がたくさんいます。そうした学生が、それぞれの人生経験や考えをディスカッションに貢献してくれるのは、とても有意義です。そしてまた、前回私が女性史を教えたときと比べると、パワーポイントも発達して授業でプレゼンできる視覚材料もずっと洗練されたものになったし、インターネットでアクセスできる一次資料の幅もぐっとひろがっているしで、授業の内容やスタイルも21世紀らしくなってきました。

これから大統領選がいよいよ加熱するので、10月末には、授業で、「どちらの候補が女性にとってよりよい政策をもたらすか」というトピックで、ディベートをさせ、課題のひとつとして論説を書かせます。日本でも放映されたことでしょうが、昨日はマケイン対オバマの第一回のディベートがありました。予想通り、経済関係のトピックについてはオバマ氏優勢、外交関係についてはマケイン氏が強みを見せて、あきらかにどちらかの候補者が勝ちという結果ではありませんでした。金融市場の転落(ほんとうに大変な騒ぎです)で、アメリカ市民は今後の生活にますます不安を感じているなかの選挙戦で、目が離せません。

ところで、ずいぶん前にFacebookについての投稿をしましたが、FacebookやMySpaceなどのアメリカ中心のSNSサイトと、ミクシーのような日本のSNSサイトでのインターネット文化の差異が、こうした記事でも話題になっています。(この記事を載せているのは、テキサスに本拠地をもつ、科学技術や健康医療などを専門にするRedOrbit.comというサイトです。)本名を含め、自分に関する情報をほとんどまるで明かさないまま1500万人もの人がミクシーで「社交」「ネットワーキング」している様相というのは、アメリカのインターネット文化からするとやはりかなり奇妙に見えるようです。Match.comのようなサイトがなかなか日本では普及しにくいのも、匿名性の高い文化と関係がある、ということも述べられています。なるほど。

それでも、Facebook自体も日本でもだいぶ広まってきているようで、私は最近、Facebookを通じて、20年くらい連絡がなかった昔の知人や、小学校時代の友だちのお兄さん(!)から連絡をもらったりしています。また、『ドット・コム・ラヴァーズ』を読んでとても面白かったと、Facebookを通じてファンレターを送ってくださったかたも何人もいます。そして、日本のネット文化についての上記の記事も、私はFacebookに友だちが投稿していたので知りました。なんとも面白いものです。

2008年9月11日木曜日

幸せな結婚の鍵はお財布にあり

2001年の世界貿易センターとペンタゴンのテロ攻撃から今日でちょうど7年。追悼行事のため今日は大統領選のキャンペーンも休止です。

まったく関係ないですが、今日のニューヨーク・タイムズに、幸せな結婚の鍵はお財布にあり、という主旨の興味深い記事があります。お金持ちと結婚すれば幸せになれる、ということではまったくありません。要は、お金に関しての価値観が自分と合致している相手と結婚して、定期的にお金に関する率直な話し合いを続けることが、円満な結婚生活への大きな鍵だ、ということです。どんなものにどれだけのお金を使うかということは、どんなライフスタイルを思い描き、また人生になにを求めているかということと密接につながっている。だから、結婚を考え始める頃から、カップルは、これから数十年どんな生活をしたいか、子供はほしいか、子供の日常的な世話は誰がするか、学校は公立にするか私立にするか、仕事はいつまで続けるか(アメリカの職場では普通定年がないのでこれは重要なポイント)といった話し合いをしてから結婚生活へのコミットメントをする。そして、結婚してからも、毎月どれだけの貯金をするかといったことに始まって、収入と労働時間との兼ね合い、家族での時間の過ごしかたなどについて、定期的な話し合いを話し合いをすることが大事だ、とのこと。お互いの仕事への理解とサポートも大変重要で、目的達成のためにしばらくは低収入の生活を続けたり、収入はかなり減るものの本当にやりたいことをするために仕事の方向転換をしたりする場合は、パートナーが精神的にも金銭的にもそれをサポートしてくれることが必要である。そして、金銭面での感覚や意見の違いが続くようなら、ファイナンシャル・プランナーやセラピストなどの第三者のプロに二人で相談に行って、客観的なアドバイスをもらうことも大事だ、というあたりはいかにもアメリカらしい。そしてまたアメリカらしく、最後のアドバイスが、「結婚生活に投資すべし」。ときには子供を預けてふたりでデートに出かけるためにお金を使うのは、結婚生活を長期的な幸せにつなげるための小さな投資だ。夫が高収入の仕事を何十年も続けて巨額の財をなし、妻が立派な家を美しく飾っていても、退職する頃には夫婦が共有している経験や考え、感覚などがまるでなく、退職してから離婚にいたる夫婦も少なくないという。夫婦関係そのものが投資の対象、という考えかたは、なんともアメリカらしいですね。『ドット・コム・ラヴァーズ』にも書いたように、小市民的な金銭感覚の私には、相手がどんなものにどのくらいのお金を使うかということが結構気になるので、この記事、私にはずいぶん納得がいく気がします。よかったら読んでみてください。

2008年9月9日火曜日

大統領選と「家族」

新学期が始まると同時に、2週間続けて民主党全国大会と共和党全国大会があってほぼ毎日テレビに釘付けになっていたので、仕事や雑用がたまってしまいました。民主党全国大会では、最終日のオバマ氏の演説ももちろんですが、ヒラリー・クリントン、ビル・クリントン、ジョー・バイデン副大統領候補の演説がとても印象的でした。現在の政治・経済・軍事状況を根本的に方向転換しなければいけないという切迫感と、一般市民の声を反映したワシントンの編成への希望が合わさって、ものすごい熱気のうちに大会は幕を閉じました。私の友達にも、サンディエゴからデンヴァーまで出かけて行って大会の一部に参加した夫婦がいますが、「スポーツの試合で感じるような原始的な熱気と、ロックのコンサートにあるような欲望と情熱、それに加えて一番危険な要素である知性というエネルギーが合わさって、生まれて一度も体験したことのないような熱気が街中に溢れていた」とメールを送ってきました。

共和党のほうは、大会開幕直前にサラ・ペイリンが副大統領候補に指名されたことですっかりそちらに話題が集中しましたが、私にとってまずとにかく印象的だったのは、テレビ画面に映るセント・ポールの大会会場の観衆の実に均質だったことです。民主党大会の参加者が、年齢・人種・スタイルなどにおいて多様だったのときわめて対照的に、共和党大会でテレビ画面に映る実に9割以上は、白人の中高年層だったのが、なんとも奇妙でした。また、ペイリンやマケインのみならず、大会での演説はほとんどまったくといっていいほどブッシュ政権に言及せず、これまでの共和党のリーダーシップからはっきりと一線を画し、オバマ氏の提唱する「変革」を自らのスローガンに取り入れるレトリックは、現状に不満と不安を抱いている一般市民、とくにどちらの政党にも属していない有権者の支持を獲得するための作戦でしょう。それにしても、ルーディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長や、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の演説にみられた、生理的といっていいほどの反リベラル主義、反知性主義、反エリート主義(といっても、オバマ氏本人やバイデン副大統領候補の生い立ちや社会的背景と、共和党の政治家たちのそれを比べたら、社会経済的な意味での「エリート」は明らかに後者なのですが)には驚くべきものがあります。

ペイリンはあまりにも急に全国政治の舞台に現れたので、副大統領候補指名以来、メディアは彼女の経歴、政策、そして家族関係などを追うのにおおわらわです。若くてきれいでエネルギッシュな女性が指名されたことで党全体が活気を取り戻し、中絶問題などについてきわめて保守的な立場をとっているペイリンがキリスト教福音主義者などの社会的保守派を再確保できるという見通し、またヒラリー・クリントンが民主党大統領候補(もしくは副大統領候補)に指名されなかったことに落胆している女性がペイリンを支持するために共和党に転向するという可能性などの点で、マケイン氏の意外な選択は、とても巧妙だと言えます。ただ、いくらなんでも、ヒラリー・クリントンを支持していた女性がペイリンのために共和党に転向するとは、私には考えられません。とにかく女性がホワイトハウスに入りさえすればいいと思ってヒラリー・クリントンを支持していたような女性はごく少数で、ほとんどは彼女の政策に賛同していたわけでしょうから(と思いたいです)。

ペイリンの演説、そして彼女の経歴や政策についてはたくさん言いたいことがありますが、『ドット・コム・ラヴァーズ』との関連で言えば、やはり、「家族」というものの政治性が、ペイリンの登場によって一段と明らかになり、それがアメリカならではの様相を見せているのが興味深いです。ダウン症の乳幼児と妊娠中の17歳の娘を含め5人もの子供がいる女性がこれだけの政治舞台にたつのは、確かに画期的なことで、女性の仕事と家庭の両立を促進する社会作りという点ではこうした人物の登場は賞賛すべきことに違いありません。が、実際の政策面で、マケイン・ペイリン政権がとくにミドル・クラスや労働者階級の女性や家庭の暮らしをよい方向にもっていくとは、私には考えられません。私は今学期ちょうどアメリカ女性史の授業を教えていて、今ちょうど19世紀から1920年までの参政権運動の部分をカバーしているので、歴史的なことと現在の選挙戦を結びつけて、学生たちと活気にあふれたディスカッションができて面白いです。

それにしても、原油に代わる代替資源開発の必要を両党とも唱えているなか(しかし、マケイン氏は代替資源開発に関わる立法案に再三にわたって否決の投票をしてきています)、共和党大会で観衆が叫んでいた、"Drill, baby, drill"(アラスカ油田開発を進めろ、ということ)というかけ声には呆れました。

とはいっても、世論調査では、現在共和党支持は民主党支持をやや上回っているらしいので、これからの選挙戦がいったいどう展開していくのか、目が離せません。アメリカに身を置くには、とても面白い時期であるのは間違いありません。