2021年10月23日土曜日

『Unpredictable Agents: The Making of Japan's Americanists during the Cold War and Beyond 』刊行!

 私が企画編集してここ数年取り組んでいた、Unpredictable Agents: The Making of Japan's Americanists during the Cold War and Beyond が、無事にハワイ大学出版より発売となりました!

この本は、広義の「アメリカ研究」に従事する12人の日本出身の研究者たちが、どのような場や形で「アメリカ」と出会い、どのような経緯でその研究にキャリアを捧げることになったのか、自らにとって「アメリカ」とはなにか、といったことを語るパーソナルなエッセイを集めたものです。それぞれユニークで感動的な物語なのですが、それと同時に、そうしたきわめてパーソナルなものに思われる個人史が、帝国、植民・移民、戦争、占領、冷戦外交、貿易などによって色濃く刻印されていることも浮かび上がってきて、本全体でいろいろな角度から20・21世紀の日本とアメリカの出会いの力学や様相に光を当てるようになっています。

一口に「日本出身の研究者」と言っても、戦後占領下の沖縄で新聞配達少年として米軍基地を回った人、北海道のアメリカ人メノナイト宣教師のコミュニティで育った人、日本の家庭でありながら両親の教育方針で家では英語とスペイン語を話して育った人、戦争の歴史に巻き込まれて家族と離れ日本で人生を送ることになったアメリカ生まれの祖母からアメリカに移民して行った曽祖父母の話を聞いて育った人、父親が単身赴任で家を留守にしがちだったサラリーマン家庭で育った人、幼い頃に親の駐在でアメリカに渡り現地学校の教育を受けた人など、その背景や生い立ちは実にさまざまです。そしてまた、そうした人たちが出会った「アメリカ」も、時代、場所、状況などにおいて実に多様です。当たり前のことですが、「日本人アメリカ研究者」が共通の出発点からひとつの「アメリカ」に行った訳ではまったくないのです。そしてこの12人の現在も、どんな場所でどんな人たちに囲まれて暮らし、どんな学生を相手にどんな授業をし、何語でどんな著述をしてきたかなど、実にさまざまです。

私がこの本を企画するに至った背景には、もとはと言えばだいぶ前にこのブログでも書いた、松田武先生の『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー』への共感と疑問がありました。奨学金や学術交流、研究助成といった形の文化外交、その根底にある各国政府の思惑が、知のありかたに影響を及ぼすということには異論がないけれども、実際にそうした中で「アメリカ」に出会い、経験し、研究する人たちの道程を、もっと近い距離から見てみることも大事なのではないか。松田先生の本を読んでからずっとそう思っていたのですが、その問いに応えるひとつの手段としてのこの企画を、研究仲間とおしゃべりをしている時にふと思いついたのでした。

個人の物語と世界の力学がどのように交差して、その中で「知」がどのように作られるのか、「日本」にとっての「アメリカ」とは何を意味しているのか、そして研究者の役割とは何か。そうした大きなテーマが、きわめて具体的で個別的なストーリーを通じて語られています。アメリカ研究や日米関係史に携わる研究者にはもちろんですが、一般の読者にも興味を持って読んでいただける内容だと思います。是非どうぞ!