2011年8月23日火曜日

大学院生のためのマジなアドバイス

いよいよ授業が始まりました。午前中に女性史の授業の第一回めがあり、これから大学院のゼミがあります。大学院の授業では、講義の内容紹介をしたり学生の関心を知ることに加えて、大学院で勉強するというのはどういうことか、という実際的な話もするつもりです。

私は以前、アメリカ研究学部の大学院生全体、とくにまだ資格試験や論文の指導教授を決めていない新入生や二年めの学生たちの面倒をみる、Graduate Chairという役を務めていたことがありますが、そのときに、新入生オリエンテーションで配っていたのが以下のリスト。『アメリカの大学院で成功する方法』を読んでくださっているかたには、それぞれの項目で私が言わんとしていることはすぐわかると思います。これに目を通すと、新入生たちはたいてい、笑いと恐怖の混じり合ったような、なんともいえない表情になるのですが、リストを作った私としては、なかなかいいアドバイスだと思っております、エッヘン。上述書を読んでいないかたでも、リスト自体は読めばすぐわかると思うので、英語でそのまま以下添付いたします。

Mari’s No-Nonsense Tips on Successfully Completing Your Graduate Degree

(and Having a Fulfilling Academic Career)

1. Think twice (and three, four, five . . . times) before entering academe. Know what you’re getting into by finding out what an academic career entails. Give serious thought to why you want to pursue an academic life.

2. Make sure that you’re in the right discipline, school, and department. If you find out that you’re not, give serious thought to changing paths.

3. Have a plan for funding the rest of your graduate study.

4. Do not expect your life to be normal for the duration of graduate school. If you’re not ready or able to have your life revolve around your academic work for the next X [2-3 in the case of an MA, 5-10 in the case of a PhD] years, now is not the right time for you to be in graduate school.

5. Do not expect your family and friends outside of academe to understand, let alone sympathize with, what you’re going through in graduate school.

6. Expect that at least one major family, relationship, financial, automotive, health, housing, or some other type of disaster will be part of your life in the next few years. Acquire the skills of compartmentalization.

7. Plan your course of study with a long-term vision. Fill the gaps in your training early.

8. Do not underestimate the importance of acquiring strong writing skills. Make specific efforts to strengthen your writing skills.

9. Choose your mentors carefully. Develop and maintain a good, healthy relationship with your mentors. Have role models. Keep your mentors posted of your progress.

10. Nurture a community of peers with whom to share and mutually critique work.

11. Set high standards for yourself, but be realistic in your expectations. Remember that graduate school is only a beginning step in your long academic career.

12. Know that feeling stuck, overwhelmed, lost, helpless, unimportant, unoriginal, etc. is par for the course. Do not let those feelings steer you away from your goals. Find a way to pull yourself out of self-doubt and to focus on concrete goals at hand.

13. Try to keep perspective. Take your work very seriously, but don’t take yourself too seriously.

14. Maintain good physical and mental health.

15. When in doubt, remind yourself why you started this in the first place.

2011年8月22日月曜日

Paul Auster, _Sunset Park_

先週始めた朝5時半からのboot campも二週目に入り、5時起床も少しずつ慣れてきました。なにしろあんな時間にあれだけの人数の女性たちが毎回集まってくるのが私には信じられない。先週はトイレに座るのも辛いくらいだった筋肉痛もだいぶ減ってきて、これは運動に慣れてきたからなのか、運動が足りていないからなのか、よくわかりませんが、とにかくせっせと通っています。

ハワイ大学は今日から新学年、新学期です。私自身はハワイですでに15年め(!)になるものの、新入生らしき人々がキャンパスマップを手に歩き回っている学期の始まりは、いつもなんとなくワクワクします。私は昨年度一年間はサバティカルで授業なし、さらにその前に一年間は日本でハワイからの留学生たちの面倒をみていたので授業はあったものの普段教えるとは内容も形式もだいぶ違い、つまり通常の形で授業をするのは二年ぶりということになります。なんだかどきどき。今年は、Approaches to American Studiesという大学院生用の授業(アメリカ研究の学説史や理論的枠組みを概説しながら、「人種」「階級」「ジェンダー」「国家」「帝国」などといた概念や扱い方がどのようにアメリカ研究のなかで変遷してきたかをおうもの)と、U.S. Women's History(その名の通りアメリカ女性史、とくにここ約百年間を中心に扱うもの)という学部の授業を担当します。学期は今日からですが、私の授業は明日からなので、今日は最終的なシラバス調整その他の雑務で終わりました。

さて、大手書店チェーンのBordersが全国で閉店が決まったことはしばらく前に発表になりましたが、ホノルルの街のなかにあるBordersでも、閉店セールをやっていて、週末覗いてきました。このような大手チェーンが幅をきかせて独立系の味のある書店を駆逐してしまう(といっても、ホノルルにはそういう「独立系の味のある書店」はほとんどないのですが)のは憂えるべきことですが、実際には、サイン会や講演、パネルディスカッション、コンサート、絵本の読み聞かせなどの催しの会場ともなり、店内のソファや喫茶店でじっくり店内の本を吟味したり宿題をやったりするために老若男女が集まってくる(こういう形の書店は日本にはほとんどありませんが、そのうちできてくるのでしょうか)BordersやBarnes & Nobleは、コミュニティのひとつの文化拠点として機能していることも確か。ホノルルのBordersもかなり大きな店舗で、私は行くとほぼ必ず知り合いに会う、という調子だったので、これがなくなるのは街の文化にとってかなりの喪失だと思います。すでに書棚の多くが片づけられていて(本棚まで売られている)、雑然とした店内にはなんとも哀しい空気が漂っていましたが、何冊か小説を買い込んできました。

学期が始まって忙しくなると仕事に直接関係のない本を読む時間はなくなってしまうので、最後にせめて一冊と、週末に一気に読んだのが、柴田元幸先生の翻訳で日本でも人気のポール・オースターの最新作、Sunset Park。オースターの作品を読んだのは実に久しぶりでしたが、「あー、そうだった、オースターの世界はこうだった」と思いながら、寝る間も惜しんで(といっても、朝5時に起きないといけないと思うと夜更かしして小説を読むのはけっこう辛い)読みました。2008年の経済危機のなか、ばらばらに壊れてしまいそうな自分の生活や人生をなんとか保とうとしたり再生させようとしたりする、さまざまな登場人物たちの道筋が、不思議な形で絡み合う様子を描いた小説。なにが素晴らしいって、それぞれの登場人物に対する作者の目線の誠実さと温かさが素晴らしい。それぞれが、傷や弱さや不安やコンプレックスや怒りや罪の意識を抱えながらも、それをそのまま背負って真っ直ぐに生きている。そのなかで、恋に落ちたり恋に敗れたり、失敗したり大事なものを失ったりしながら、傷を負うことを恐れずに生きている。主人公Milesの恋人Pilarに向ける目線、Milesの父親がMilesを思う気持ち(Milesが5年生か6年生のときに書いたTo Kill a Mockingbirdについての作文についての箇所が、とくに感動的だと思っていたのですが、本の最後にあるAcknowledgmentsをみると、これはオースター自身の娘の作文にインスパイアされたもののようです)、その父親がかつての妻とその現在の夫をみての思い、Milesの友人BingがMilesに寄せる想いなど、それぞれの人間関係が、複雑でありながら、美しいとしか形容しがたい愛情に溢れていて、切ない物語でありながら、心洗われます。文章も、シンプルでありながら深くて美しい。そのうち柴田訳が出るだろうとは思いますが、これは決して難しい英語ではないので、ぜひとも原文で味わっていただきたいです。おススメ。

2011年8月16日火曜日

Fitness Boot Camp

ハワイに戻ってからちょうど一週間。本当に信じられないくらい快適な気候の毎日です。荷物を片づけたりどこにしまったか忘れてしまったものを探したりする傍ら、来週から始まる新学期の準備をして毎日を過ごしていますが、日本で暮らしているあいだはそこに自分の人生のすべてがあるかのような感覚だったのにもかかわらず、こちらにいったん戻ってしまうと、自分はまるでずーっとここにいたかのような、自分がここを去ったときとなにも変わっておらず、そしてここでの現実が世界のすべてであるかのような感覚になるのが、なんとも不思議です。

日本にいるあいだにちょっと(いや、ちょっとではなくだいぶ)体重が増えてしまったので、こちらにきて生活がより規則的になるのを機に、気合を入れてもとの体重(それもじゅうぶん重い)に戻ろうと思って、始めるのを決意したのが、女性のためのフィットネスboot camp。本当は、週一回くらいパーソナルトレイナーにつこうかと思ってネットで検索していたときに見つけたのですが、これは月水金のなんと朝5時半から1時間のセッションが4週間続くコース。とりあえずは一対一のパーソナルトレイナーよりも他の人と一緒のほうが気が楽だし、お金も安いし、いいかなあと思ったのですが、特別朝型ではない私としては、やはり5時半という時間にビビることしきり。でも、5時に起きて運動して家に帰ってシャワーを浴びても7時ならば、脳に酸素がいって頭すっきりの状態で一日を始められるし、せっかくその気になったんだからそのくらいのコミットメントはしたほうがいいかと、そして、そういうことはその気になっているうちにさっさと入金してしまったほうがいいかと思って、コースが始まる2日前に申し込み。昨日がその第一日でした。

朝5時なんて、早朝の飛行機に乗る必要でもなければ(そういうことをしたくないので、最近は多少余分にお金を払ってでも早朝の便は避けるようにしている)起きることはないので、前の日は準備のために10時前に就寝。でも、ちゃんと起きられるか心配で、夜中に一時間毎に目が覚めてしまう(こういうところは妙に小心者)。そしていざ5時に目覚ましが鳴ってみると、やはり外はまだ真っ暗。とにかく着替えて車に乗って、会場の公園に行ってみると、なんとすでに10人以上の女性が集まっているではないか。(ちなみにハワイでは早起きの人が多く、私たちがせっせと腕立て伏せなぞをしているあいだにも、そばを散歩したりジョギングしたりしている人たちがけっこうたくさんいました。)こんな極端なことをするのはせいぜい数人なんじゃないかと思いきや、結局このクラスには20人以上が申し込んでいるらしく、初日も結局18人ほどが真っ暗ななか張り切って飛び回っていました。そのうち2人は私の友達だったのにもびっくり。うちひとりは以前からこのコースをやっているらしく(確かに彼女は出産後だいぶ体重が増えていたのが、最近めっきりとスリムで美しくなっていた)、慣れた調子。有酸素運動と筋トレを交えた運動のメニューは、どうしてもついていけないというほど大変ではなかったけれど、それは初日用のゆるいメニューだったからなのかもしれない...と思っていたら、昨日の夜からだんだんと筋肉痛になってきて、今朝起きてみたら普通に歩くのもたいへんなほど腿のあたりが痛い。しかし、明日はまた5時に起きて行かなくてはいけない。きっとこういうものは、実際の運動そのものもさることながら、とにかく朝起きて出かけるということを継続することに意味があるんだろうと思うので、なんとか4週間休まずに続けられればと思っております。

なにしろboot campというのは、軍に入隊した新人をしごくための猛訓練のことを指す単語なので、そんな名前のついたものに皇居周り一周走って満足している私なぞが参加するのには、だいぶ無理があるような気がするのですが、その後の進展は、またご報告いたします。

2011年8月10日水曜日

ホノルル帰還

ヴァンクーヴァーで4日間過ごしてから、一昨日ホノルルに戻ってきました。

チケットの事情から、成田からヴァンクーヴァーまでは、カナダ航空のビジネスクラスに乗って行ったのですが、ふだんエコノミーでじっと我慢している私にとっては、このビジネスクラスは天国のようで、ヴァンクーヴァーに到着して降りるのが残念なくらいでした。なにしろ、飛行機に乗る前から、空港のラウンジを使わせてもらえ、飲食もタダ、インターネットもタダ、ゆったりとして静かな空間でかすかにモーツアルトの弦楽四重奏が聴こえてくる。いつも成田での待ち時間は、レストランでトンカツまたはうな丼を食べて(ひとりでこういうことをしてしまうところがオヤジ)からユニクロだのなんだので要らない買い物をして過ごす私には、なんとも文明度が高く感じられる。そしていざ飛行機に乗ってみると、この座席がすごい!座席が窓に対して斜めに並んでいるのですが、ひとりひとりの座席が半分屋根のようなものがついたブースになっていて、座ってしまえば周りの人の顔も見えない。椅子はあれやこれやと調整でき、お休みモードにするとなんと全身が平らにまでなる。枕もふかふか、毛布もふわふわ、お水のボトルもついている。もちろん離陸前からシャンペンだのジュースだのが出て来るし、食事もとても満足。飛行機の後方には、ふだんの私と同じ思いをしている人たちが、身体を固くしてじっと耐えているのですが、そうした人たちとのあいだにはカーテンが引かれ、トイレも別で、互いに顔を合わせて気まずい思いをしなくて済むようになっている。出発前の待ち時間からすでに心身状態に違いをつけられ、乗り込むときには別の入口、搭乗時間のあいだは互いの姿すら見ない、というこのありかた、現実社会の階層制度をあまりにも露骨に反映しているようで、複雑な気持ちにもなるのですが、嗚呼、一度ビジネスクラスを経験してしまうと、次にまたエコノミーに乗るときは辛いだろうなあ...(ヴァンクーヴァーからホノルルまではエコノミーでしたが、乗っている時間が6時間弱と比較的短いので、さほど苦ではありませんでした。)

ヴァンクーヴァーに行ったのは初めて(いや、正確にはカリフォルニアに住んでいた子供時代に家族旅行で少しだけ寄ったらしいのですが、ほとんど記憶にない)だったのですが、私にとっては、外国に来たような、住み慣れた場所に来たような、不思議な感覚の街でした。話には聞いていたものの、アジア人、とくに中国系の人口の多さにまず驚き。チャイナタウンでなくても、街じゅうに中国語の看板があり、道行く人たちもアジア人の割合がとても高い。そして、アメリカ合衆国にいるアジア系の人たちとは、なにが違うと言われると説明に困るのだけれど、なにかが少し違っている気がする。街の様子や並んでいる店も、アメリカとほとんど同じようでいて、なにかちょびっと違ったりする。私と同分野で仕事をしている友人のブリティッシュ・コロンビア大学のHenry Yu(今回も彼とその家族としばしお茶をしました)の論文を読んで、自分がいかにカナダの歴史について何も知らないかということに愕然としたのですが、これから是非とも勉強してみようと思いました。ヴァンクーヴァーでの4日間はプライベートな時間だったのですが、誰となにをしていたかについては、またいずれ(と、思わせぶりなことを書いてみたりする)。

7ヶ月ぶりに帰ってきたホノルルは、相も変わらず青空でそよ風がふく快適な気候。ここ2年間、日本とハワイを行ったり来たりしているので、今回は戻ってきていったいどんな気持ちになるのだろうと思っていましたが、帰ってくれば、ゲイのボーイフレンドが空港に迎えに来てくれるし、留守中私のマンションを借りてくれていた人たちがきれいに掃除をしてくれていてすぐに生活を再開できるし、当然ながら自分の好みでそろえた家具やモノたちでいっぱいだし、「ああ、やっぱりここに私の居場所があるんだった」という気持ちになります。とはいえ、半年以上留守にしてから生活を再開するには、さまざまな雑用を片づけなければならず、数日間はばたばたしますが、オフィスに行けば私のやるべきことが文字通り山となって待ち構えているので、時差ぼけになっているヒマもありません。新学期は今月22日から始まります。頑張るぞー。

2011年8月3日水曜日

さようならニッポン

今回の私の日本滞在の最後の夜となりました。残念ながらサバティカルという贅沢な時間はこれをもって終わってしまい、今月半ばからハワイ大学で通常の業務を再開するのですが、ちょっとワケがあって、数日間カナダのヴァンクーヴァーに寄ってから(ハワイを通り越して行くので、「寄って」という表現はおかしいのですが)ホノルルに戻ります。

2009年秋からの一年間も日本で過ごし、半年弱ハワイに戻ってから、今回は7ヶ月の日本滞在でした。前回は、なにしろ18年ぶりの長期日本滞在だったので、帰国オバサン的カルチャーショックが多かったのですが、今回はそれに続いてのことだったので、それほどの違和感はありませんでした。しかし、今回の滞在中に東日本大震災が起こり、想像すらしなかった体験をすることになりました。直接的な影響はほとんど受けずに済む、ひじょうに恵まれた立場に私はいるわけですが、それでも、地震発生のその瞬間に日本にいて、そして震災後の日本を実際に経験したということは、自分にとってはとても大きな意味のあることでした。どう言葉にするべきかまだじゅうぶんに整理がついていませんが、この経験をしたことで、自分と日本の関係を大きく考え直すきっかけになったと思っています。

震災の影響で当初予定していた研究計画を大幅に変更することとなり、また、アマチュア・クライバーン・コンクール出場が決まってからは、かなりの時間と労力をピアノの練習にまわしたので、純粋な研究という意味では、あまり生産的とはいえないサバティカルだったかもしれません。それと同時に、当初はまるで想像すらしていなかった実に多くのいろいろなことを見たり感じたり考えたりすることにもなり、自分の思考や視座にとってはとても収穫が大きかったと思っています。また、研究プロジェクトを通じて、いろいろなかたとの新しい出会いもあり、これまでまるで知らなかった日本に触れることもできました。

さらに、個人的には、以前からの友達との関係を深めたり、音信が絶えていた知人と再会したり、親戚と新たな親交ができたりと、人間関係においてはこの上なく充実したときを過ごしました。メールやフェースブックやスカイプのおかげで、今回自分が日本を去っても、こうした人間関係は続いていくと確信できるので、日本を去る淋しさもだいぶ軽減されます。

当たり前ですが、ハワイにいて見る日本は、日本にいて経験する日本とは、かなり違うものになるはずです。そうした視点や立ち位置の相違を認識した上で、遠くにいるからこそ見えるもの、外にいるからこそ考えられることなどを、自分なりに見たり考えたりし続けていこうと思います。また、ハワイやアメリカ本土の話題についても、引き続きこのブログで紹介していくつもりですので、読者のみなさん、今後ともどうぞよろしくお願いします。それでは!