2012年7月19日木曜日

ケベックいろいろ

5日間ケベックを旅行して、昨夜トロントに戻ってきました。カナダでゆっくり時間を過ごすのは今回が初めてなので、トロントでもいろいろ発見があって面白いのですが、フランス系の歴史をもつケベックはやはりトロントとは全然違って、たいへん興味深い5日間でした。宿はモントリオールでしたが、毎日モントリオールから車で1~2時間の距離のところで開催されている音楽祭でピアノリサイタルを聴きに通っていたため、都会のモントリオールとは別のケベックの様子も垣間みることができました。モントリオールは、古い伝統と新しい文化、フランス系とイギリス系と世界の他の地域からの移民とイロコイ先住民などの歴史が混じった都会で、英語でもまあやっていけるのですが、一歩モントリオールを出ると、フランス語しか通じないという人たちがたくさん。当たり前といえば当たり前なのですが、そういう基本的なことも、やはり実際にその土地に行ってみてこそ実感が湧くものです。ケベックのナショナリズムというものを、ちゃんと勉強してみようと思いました。ついでに、大学のときに結構せっせと勉強したにもかかわらず、きれいさっぱり忘れてしまったフランス語を、またやってみようかとも思いました。


で、今回行ったのは、Le Festival de Lanaudiereと、Festival Orfordというふたつの音楽祭。Le Festival Lanaudiereのほうは、Jolietteというきれいな名前の町にある屋外シアターを中心に、近郊の小さな町(「町」らしきものも見えないほど家がまばらなエリアもありましたが)の教会などで、約一ヶ月のあいだほぼ毎日コンサートがあります。私たちは、その屋外シアター(マサチューセッツにあるタングルウッドをひとまわりこじんまりさせたような雰囲気のところ)で行われた、ケベック出身のピアニストAlain Lefèvreによる、カナダ人作曲家François Dompierreの新作24 Préludesの世界初演を聴きました。ケベックのピアニストによる世界初演ということもあり、今年のこの音楽祭のなかで一番チケットの売り上げがよいコンサートだったらしく、聴衆にはたいへんな熱気で迎えられていました。それから、同じ音楽祭の一環で、それぞれ別の小さな町の教会で行われた、Beneditto Lupo(1989年のクライバーン・コンクールで3位入賞したイタリア人ピアニスト)のリサイタルと、最近日本でも演奏しているロシア人のAlexander Melnikovのリサイタルに行きました。演奏もそれぞれ素晴らしかったけれど、周りになにもないような小さな町の教会を、音楽に対する感性の高い聴衆でいっぱいにする音楽祭の運営に脱帽。それから、モントリオールから南東に2時間近く行ったMt Orfordという山間部(冬はスキーリゾートらしい。近くには聖ベネディクト派教会の修道院もあり、見学ついでにそこで作っているワインやチョコレートも買ってきました)にある芸術センターで開催されている、Festival Orfordでは、まだ20歳という若手イタリア人ピアニスト(前述のBeneditto Lupoに師事していたそうですが、今はドイツのハノーヴァー音楽院在籍中)Beatrice Ranaのリサイタルを聴きました。彼女の解釈はちょっと変わっている部分も多いのだけれど、20歳とは思えない成熟した独自の声をもっていて驚愕。ちなみにこのFestival Orfordは、コンサートだけでなく若手音楽家のための夏期プログラムでもあり、他の楽器の学生による演奏も少し聴くことができました。


私にとってはバケーションでしたが、同行人(正確には私のほうが「同行人」ですが)にとっては仕事の出張。で、その仕事関係のランチやディナーに私もくっついて行った(日本ではそういうことはまずないでしょうが、こちらではそうした仕事上の社交の場に配偶者や「デート」が参加するのは普通)おかげで、ケベックの人たちに会ってお話することができました。考えてみたら、私はケベックの人というのにこれまで会ったことがなかった(と思う)ので、彼らの言語感覚(今回私がお話したのは、みなフランス系のケベック人ですが、仕事の関係上、英仏バイリンガルな人たちばかり)もそうですが、いろいろなお話が面白かったです。音楽祭の芸術監督をしている男性は、「ケベックの人間としては、オンタリオを含むカナダの他の地域に行くよりも、バッファロやボストンやニューヨークなんかのアメリカの東海岸の都市に行くほうが居心地がよい」と言っていました。もちろんケベックの人たちみながそう感じるわけではないでしょうが、カナダという国のなかでのケベックの位置づけ、他の地域のカナダ人がケベックをどう捉えているか(とケベックの人たちが感じているか)を、ちょっと垣間みさせてくれるコメントではあります。ピアノの技術者をしている男性のガールフレンドで、建築現場の監督をしているという人にも会いました。その人は、スタイル抜群のセクシーな美人で、雰囲気としては彼女自身がピアノ関係の仕事かしらんと思うような女性なのですが、きいてみると彼女はピアノにはまったく関係がなく、子供の頃からおてんばで外で動き回ったり手足を使って物事をするのが好きだったので、この仕事につくようになったそうです。さすがに女性の建築現場監督というのは珍しく、ケベック全体でも女性で彼女と同じ立場にいるのは他にひとりしかいないそうですが、毎日何十人もの男性に指示を出しながら、現場をとりしきっているらしい。カッコいい。そして、音楽祭の運営者や、ピアノの調律師といった人たちと何人もお話をしましたが、そういう人たちがどういう経緯でその仕事をするようになって、その仕事のどういう側面を楽しいと思うのか、その仕事においてはどんな苦労があるのか、そうした話を聞くのが私にはとっても面白い。


モントリオールでは、考古学・歴史博物館と、モントリオールやカナダの歴史を専門にするMcCord Museumに行って、モントリオールの歴史をちょっと勉強しましたが、アメリカの隣国であり、歴史的にもさまざまな接点があるにもかかわらず、カナダのことを自分がいかになにも知らないかということを、しみじみ認識。勉強しなくっちゃ〜。