2011年10月25日火曜日

American Studies Association ボルティモア声明

先週木曜から昨日まで、学会でボルティモアに行ってきました。私の専門であるアメリカ研究全体を扱うAmerican Studies Associationという学会の年次大会だったのですが、私の所属するハワイ大学のアメリカ研究学部が新任教員を採用するための一次面接をこの学会で行うため、私はそちらにかり出され、自分が司会を務めたセッション(ちなみにこれは、ティーチング・アシスタントなどの役割で働く大学院生の労働についてのセッションで、イェール大学やニューヨーク大学で大学院生の労働組合化の運動に携わってきた大学院生や、アメリカの高等教育の歴史や労働史を専門にする研究者が発表をし、とてもいいセッションでした)以外はひとつも研究発表を聞かずに終わるという状態でした。『アメリカの大学院で成功する方法』でも説明していますが、アメリカの大学での教員採用のプロセスはなかなかシビアで、書類選考を経た後での一次面接(ポジションにもよりますが、普通はこの段階ですでに倍率数十倍のふるいにかけられています)ではひとりにつき大体四十分から一時間、研究や授業についてのかなり突っ込んだ会話をします。もちろん面接を受けるほうは大変ですが、十人以上の候補者の研究や授業のシラバスに目を通してまともな質問をしなければいけないこちらもけっこう大変。でも、こうして採用にかかわるたびに、第一線で画期的な研究をし、真剣に教育に取り組んでいる若手研究者たちの仕事を知って、カツを入れられる気持ちになり、とても刺激的です。今回も、「この人たちの誰を採っても私たちの学部には素晴らしい戦力になるのは間違いない」という人たちが数多くいたので、ともかくは安心。


そんなわけで、学会の主な活動にはまったく参加できませんでした(といっても、「学会の主な活動」とは、他の大学で仕事をしていて普段は会えない仲間たちとバーでおしゃべりをすることだ、とも言えるので、その意味では夜の部にはそれなりに参加しました)が、夜や学会が終わった後の日曜日にはボルティモアの街を少し散策。ボルティモアは、2002年から五シーズンにかけてケーブルテレビのHBOで放映された刑事ドラマThe Wireの舞台。刑事ドラマといっても、この番組は形式においても内容においても一般的な刑事モノとはずいぶんと違った作りになっていて、各エピソードで安易な答を出そうとせず、麻薬、教育、警察、メディアなどに焦点を当てながら、シーズンを通してボルティモアそしてアメリカ全体の政治・経済問題を深くえぐり出す、とてもシリアスで画期的な番組。今回の学会でも、ボルティモアの研究者の案内でこの番組で取り上げられる場所などをまわるツアーというのがあり、私は面接がなければぜひ参加したかったです。




学会会場のホテルのすぐ近くの公園でも、Occupy Wall Streetのボルティモア版があり、テントを張って泊まり込みで抗議運動をしている人たちがいました。


また、学会の審議会でも、この運動への支持を表明し、経済危機のなかでこそ批判的・分析的な精神を養い民主的な社会の実現するための教育の必要性を訴えた声明文が採択されました。学会がこういう声明をするのだということ自体、なかなか興味深いのではないかと思うので、以下全文掲載します。


Political Dissent in a Time of (Economic) Crisis

A Statement by the Council of the American Studies Association
20 October 2011
We are the public. We are workers.  We are the 99%.  We speak with the people here in Baltimore and around the globe occupying plazas, parks, and squares in opposition to failed austerity programs, to oligarchy, and to the unequal distribution of wealth and power.  The loss of jobs, healthcare, and homes, the distressing use of mass incarceration and mass deportations, and the destruction of environments have brought so many households and individuals to crisis. We join with people re-claiming commons rights to public resources.  We join in the call against privatization and for a democratic re-awakening.
As educators, we experience the dismantling of public education, rising tuition, unsustainable student debt, and the assault on every dimension of education.  As American Studies scholars, our work includes, among other things, addressing the problems and challenges societies face, drawing lessons from the past, comparing across polities, and making informed recommendations that will spark open debate.  We draw inspiration from earlier social movements that have challenged the unequal distribution of power, wealth, and authority. Today’s movements continue this necessary work. The uprisings compel us to lift our voices and dedicate our effort to realizing the democratic aspirations for an equitable and habitable world.  We are the 99%.