昨日、『Wagner's Dream』という映画を観てきました。いや〜、すごかった。
これは、あらゆるオペラのなかでも超傑作とされているワーグナーの『ニーベルングの指輪』全4部の、メトロポリタン歌劇場での新しいプロダクションの様子を追ったドキュメンタリー。監督はSusan Froemkeで、私が大好き(映画館でみてあまりにもよかったので、このあいだニューヨークに行ったときにメトロポリタン歌劇場のギフトショップでDVDを買いました)なドキュメンタリー『The Audition』の監督でもある人。
メトロポリタンでは20年間にわたり『指輪』の新しい演出はなされていなかったところに、演出家Robert Lepageが抜擢され、国境を超えたプロダクションチームが、ワーグナーの壮大な構想を実現するために実に6年間をかけて取り組んだ、芸術的・技術的な大挑戦。私は第一部の『ラインの黄金』が映画でのライブビューイングで上映されたものを観に行きましたが、たしかに斬新なプロダクションに感心すると同時に、あまりにもセットがすごいのでそちらに気を取られて音楽に集中できないな〜、などと思っていたのですが、このドキュメンタリーを観て、いやはや、あのプロダクションにかけられた、尋常でない技術や知恵や情熱をかいま見、素直に感動しました。ひとつのオペラのプロダクションに、Robert Lepageやメトロポリタン歌劇場の総支配人であるPeter Gelbのみならず、巨大なセットを作る大工さんやその移動の方法を考える技術者、スタントマン、衣装スタッフ、そしてもちろん、宙にぶら下がったり動くセットをよじ上ったり滑り降りたりしながら歌わなければいけない歌手たちの、何年にもわたる思いと労力が込められているのをみると、畏れ多い気持ちになります。そして、複雑な技術がたくさんあるからこその、本番でのハプニングもあり、6年間の努力がオープニング当日にすべて実を結ばなかった落胆を考えると、観ているこちらまでスタッフとともに悔しい気持ちになり、また、次の公演のときにちゃんとうまくいくかどうかと、こちらも手に汗握る思い。そして、並んでチケットをとり、斬新なプロダクションについて、むきになってあれこれ論評するオペラファンや、雨のなか合羽を着て何時間も座ってリンカーンセンターの広場やタイムズスクエアのスクリーンでの放映に見入る人たちの姿にも、なんだかじーんとくる。莫大な赤字を抱えていると伝えられるメトロポリタン歌劇場ですが、そのなかで芸術にこれだけ惜しみなく人力・資力・技術を投入する勇気のある人たちと組織が世の中に存在して、本当によかったと、心から思わせてくれます。私はとくに『指輪』にも詳しくないし、観るにもなかなか体力を必要とするのでちょっと躊躇していましたが、機会があったらぜひ全4作、メトロポリタンで生の上演を観てみたいと思いました。この映画、日本で上映される予定があるかどうかわかりませんが、機会があったらぜひぜひどうぞ。