2009年10月17日土曜日

アメリカの声を聞く

日本に来て早速手に入れ、愛用していたiPhoneが、金曜の朝、充電中に突然まったく反応しなくなり、あらゆるボタン(といっても押せるボタンは二つしかないのですが)をいじってみても電源すら入らなくなって、大パニック。慌てて渋谷のマックストアに行ったのですが、テクニカルサポートにはその日はすでに150人(!)もの人が列をなして待っているということで、予約がとれるのは月曜朝。iPhoneなしで週末を過ごしています。電話の機能もさることながら、カレンダーもアドレス帳も全部iPhoneに入っているし(これはまあ、パソコンに同じデータが入っているのでパソコンもクラッシュしないかぎりは大丈夫)、なんといっても、バスや電車の中で(なにしろ都心から遠いところに住んでいるので、移動時間が長いのです)iPodで音楽やアメリカのラジオ番組を聴くのが私にとっては生活の重要な一部なので、これがないのはとても辛く、途方に暮れてしまいます。

私は普段ハワイにいるときは、車を運転するとき以外にはまずラジオを聴きません。聴くラジオのうち98%くらいは、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)(『現代アメリカのキーワード』参照)です。それも、ハワイは小さい島で、私は職場までも車で10分とかからないところに住んでいるし、用を足すにも30分以上車に乗ることはまずないので、聴くにしてもごく断片的にしか聴けないのですが、NPRの番組は質の高いものが多くて、話に引き込まれ、最後まで聞きたいので、目的地に着いてもしばらく車を停めて聞くこともあります。私はイヤホンをつける習慣がなく、日本に来るまではiPodすら持っていなかったのですが、こちらに来てからiPhoneでNPRを聴くようになって、普通にラジオを聴くのとはまた別の味わいがあるなあと感じるようになりました。車のなかで聴くとき以上に、話し手の抑揚やアクセント、リズムなどがものすごく生々しく伝わってくるし、なんだか会話の現場に自分が居合わせているような親密さがあるのです。こうして聴いてみると、同じ英語でも、アメリカの人々の声や発音には、年齢や地域、人種や民族(顔が見えず、話し手の人種や民族に直接言及がなくても、声でかなりの程度推測できるところがなかなか興味深い)、職業や社会階層などによって、実に多様なパターンがあるんだなあと改めて実感もします。(ちなみに、アメリカ人のあいだでは、政治思想的傾向によって、「イラク」という単語の発音のパターンがかなりはっきり分かれるという統計があるらしいです。)話の内容以前に、アメリカという国を構成する雑多な人々の声を聞くだけで、なんだか懐かしくなり、小田急線や神奈中バスの中で、ひとり別世界にいるような気持ちになります。

で、NPRのなにを聴くかと言うと、私の一番のお気に入りは、Terry Grossという名ホストが司会・インタビューをするFresh Air。これは政治・外交から映画・音楽にいたるまで、あらゆるトピックをカバーし、話題の人をインタビューする、割と正統的な一般報道番組ですが、Terry Grossの知性とユーモア、そして周到な準備で、聞いているだけでさまざまな問題への理解が深まります。ちなみに私は、「僕の理想の女性はTerry Grossだ」とmatch.comのプロフィールに書いている男性からメールをもらってデートに出かけたことがあります。(笑)

それから、Ira Glassという人物が企画・脚本・インタビューを手がける、This American Life。これは、毎回なにかひとつのテーマに沿って、それに関わる経験をした人をインタビューし、物語性のある構成に仕上げる、言うなれば人間ドラマ。ひとりの人の話だけでまる一時間使われることもあるのですが、話し手(これはたいてい「普通の」人間)の飾らない声や話しぶりと、編集の見事さで、実に引き込まれます。

そして、楽しい気持ちになりたいときに聴くのがCar Talk。これは、ハーバード大学のあるマサチューセッツ州ケンブリッジに住む兄弟がホストを務める、自動車の修理についての電話相談番組なのですが、そう聞いただけではとても想像できないほど面白いのです。バッテリーがあがってもジャンプスタートの仕方すらわからないほどの車音痴の私が好き好んで聴くくらい面白いのです。実際に兄弟が車についてテクニカルな話をしているときには、私にはなんのことだかさっぱりわからないのですが、一時間の番組のうちのかなりの部分は、兄弟間の、そして電話をかけてきた人との、軽妙でおかしなやりとりに費やされます。そのやりとりの多くは、自動車とはなんの関係もない、夫婦関係とか恋愛とか食べ物とかの話題。電話をかけてくる人も、実にいいタイミングとウィットで彼らとやりとりをするので、かかってくる人のうちどの人を番組に出すかというのをよほど慎重に選んでいるのかと思います。ちなみに私は最近のmatch.comの自分のプロフィールには、「私の役割モデルはCar TalkのホストのTom and Rayです。専門的かつ実用的な知識を持っていて、人の役に立つ、でも自分たちのことをエラいなどとは微塵も思っていなくて、とにかく楽しんで仕事をしている、そしてみんなを楽しい気分にさせる、彼らのような人間に私もなりたいと思っています」と書いています。

これらのPodcastは、すべて無料でiTuneからダウンロードできます。英語の勉強にもとてもいいです(名前は出しませんが、「PodcastでNPRを聴くようになって、英語のヒアリング力がずいぶん向上した」と言っている著名な人物もいます)ので、ちょっと聴いてみてください。ただし、「アメリカの多様な声を聞く」という意味では、リベラル寄りのNPRを聴くなら同時に保守系のラジオやテレビ番組も聴いたほうがいいのかもしれません。FOX Newsも無料でいろんな番組をPodcastしているようですが、私は混んだ電車のなかでさらにイライラしたくないので聴かないようにしています。

1 件のコメント:

Planck さんのコメント...

初めてコメントします。Fresh Airとあったので反応しました。20年以上前に始めて米国に渡った時に、研究所の昼食の英会話についていけなくて、時間があるときにNPRを聞いて、なんとかリスニングを上達させようとしたことを想いだしました。Terry Grossさんの番組はそのころから大好きでした。知的好奇心に溢れたインタビューが、毎回新鮮でした。

私は理系なので、Ira FlatowのScience Fridayもよく聞いています。New York Timesの科学欄と供に、米国の科学ジャーナリズムのよい面を表していると思います。

大学に勤めていると、「アメリカの多様な声を聞く」のはなかなか難しいと感じています。何かの機会に普通の米国人とお話をすると、外の世界はまったく違うと驚かされることがあります。