2010年2月16日火曜日

Tea Partyはメインストリーム化するか?

ホノルルでの一週間は、あっという間に終わってしまいました。平日の昼間は大学院生とのミーティングや会議やらですべて埋まってしまい、ハワイにいるあいだに少しは書こうと思って持って行った原稿にも、結局まったく手をつけないまま(スーツケースから出すこともないまま)持って帰ってくることになりました。でも、自分を頼りにしてくれる学生がいたり、自分がするべき仕事がある、要は、自分が必要とされていると感じられるということは、とてもありがたいことです。

『ドット・コム・ラヴァーズ』についての講演は、たいへん盛況で、私の専門とはまるで関係のない分野の研究者や大学院生などが大勢来て、たくさん質問をしてくれました。講演の中身は、基本的に11月に北大で講演したときと同じ内容だったのですが、今回は聴衆がまるで違うし、なにしろ『ドット・コム・ラヴァーズ』に登場する男性や、それらの男性を個人的に知っている人たちも聴衆にいたので、いったいどんな反応が出るのか、私としても興味津々でした。どんな執筆や講演でもそうですが、受け手がなにを受け止めどう解釈するのかというのは、こちらが言わんとしていることもさることながら、受け手のほうが持って来る経験や考えによって大きく変わってくるのだなあということを、改めて感じました。「白人男性のオリエンタリズムについて論じたということだが、アジア系アメリカ人男性がアジア系やアジア人女性に対して抱く理想やイメージについてはどう思うか」とか、「(私は講演の前半で『ドット・コム・ラヴァーズ』を桐島洋子や吉田ルイ子による「アメリカ体験記」の系譜に位置づけたのですが)桐島洋子の黒人に対する偏見について述べていたが、自分自身の黒人男性に対する思いはそれと比べてどうか」とか、「ゲイを扱った章についてLGBTコミュニティの反応はどうだったか」とか、「パーソナルなこととポリティカルなこと、個人的なことと構造的なことの関係について述べていたが、パーソナルな著述においてそうした関係をもっとも有効に扱っている理論家や研究者は誰だと思うか」(これに関してはとっさに答が思いつきませんでしたが、まさにその問題を扱った『Academic Lives: Memoir, Cultural Theory, and the University Today』という素晴らしい研究書を書いた私の友達のCynthia Franklinが私の講演の司会をしてくれていたので、彼女にその質問をふってごまかしました:))など、なかなか面白い質問が出ました。

日本とハワイでの自分の生活を比べて、一番違うのは、なんといっても人間関係です。なにがどう違うと具体的に説明するのは、時間も字数もかかるのでまた別の機会に詳しく書きますが、やはり、「家」の感覚が違うとか、人間と人間のあいだの垣根のありかたが違うとか、そういう要素が大きいように思います。日本には、子供から大人になる時期を一緒に過ごした友達がたくさんいるので、大人になってからの生き方が全然違っても、根本的なところでつながり合っていると感じられるし、そうした友達と同じ場所で同じ時代を経験できるのは嬉しいことですが、日常的な人間関係という点では、ハワイやアメリカ全般のほうが、より気軽でもあり濃厚でもあり、考えとか感情とかを投げ合う密度が高いと感じます。どちらがよくてどちらが悪いというわけではないですが、双方のあいだを行き来するときには、大幅なギアチェンジが必要です。

まるで関係ないですが、今日のニューヨーク・タイムズに、以前にもこのブログで言及したTea Partyというアメリカの政治運動についての長文記事があります。Partyとは言っても、そうした名前の正式な政党が存在するわけではなく、保守や極右のさまざまな関連団体のメンバーや、今回の不況まではとくに政治に関わったことのなかった一般市民が、各地でオバマ政権への抗議集会や合衆国憲法の勉強会を開いたりして、徐々に全国化してきた草の根運動で、景気対策法案や金融業の救済に強く反発し、健康保険や社会保障を含む連邦政府の制度全般に反対し、税金のボイコットを提唱し、個人が武装して暴政と闘う準備をする、といった立場が特徴です。今までは、妄想にとりつかれたごく少数派による動きとしてメインストリームにはまともに相手にされてこなかったものが、段々とメディアとの関係や既存の政治組織などと連携して勢力を拡大していると見ることもできる。いったいこの人たちはどういう背景でこうした運動に入り、なにを目的としているのか、ということがよく説明されている記事です(が、読んだからといって運動支持者に共感できるかというとそうではありません)。この投稿の時点では1500人以上の人が記事に「コメント」をポストしていますが、これらのコメントを読むのも面白いです。