2010年5月11日火曜日

幸せな結婚の科学

今日のニューヨーク・タイムズでもっとも多くの読者が知人にメール送信している記事というのが、「幸せな結婚の科学」という記事。それにしても、ニューヨーク・タイムズには、実に見事な頻度でこのような結婚に関する記事が掲載されます。それ自体が、アメリカ社会において結婚や家庭の占める位置を示唆しているような気がします。また、アメリカの人の多く(少なくともニューヨーク・タイムズを読むような人たちの多く)が、実に意識的に結婚生活というものについて考えているんだということが感じられます。

なんでも、最近の研究によると、安定した結婚生活を長く送る人と、長期的な「コミットメント」をするのが苦手な人とのあいだには、脳のホルモン分泌を統制する遺伝子に違いがある、とのこと。(ただしこのデータは男性の被験者のみにもとづいた結果で、女性についての調査はこれからおこなわれるそうです。)しかし、だからといって、その遺伝子をもっていない人が幸せな結婚ができないかというとそんなことはなく、コミットメントというのは訓練によって身につけられるそうです。恋愛や結婚にコミットしている人は、自分のパートナー以外の魅力的な男性や女性が身近に現れても誘惑に惑わされにくい。しかしまた、ここで興味深いのが、男性と女性のあいだでは誘惑に対する反応に違いがあり、男性よりも女性のほうが、現在自分がもっている関係を脅かすような状況や人物が出現すると、それに敏感に反応する、とのことです。つまり、女性のほうが、結婚や恋愛を脅かすものに対して、より早期に気づいて反応するシステムを身につけているらしい。むむむ。

さらに興味深いのは、お互い強いコミットメントを抱いているカップルにとって、そのコミットメントとは、必ずしもお互いへの愛情とか忠誠心といったものからのみ生まれるものではないらしい、ということ(これはデータから導き出された結論というよりも、推論らしい)。むしろ、夫婦間の絆を強めるのに大事なのは、相手と一緒にいることによって、刺激的な経験ができ、自分の世界が広がり、よりよい人間になるという気持ちになれる、とお互い感じられることだ、ということです。ある実験によると、なにかの課題に一緒に取り組み、困難を乗り越えて最終的に目標を達成したカップルは、そうした経験を共有していないカップルよりも、お互いへの愛情や満足度が高くなる、との結果が出たそうです。まあそりゃあそうだろう、という気もしますが、ポイントとしては、夫婦や恋愛の絆を強化しようと思ったら、なにごともなく平穏に日々を過ごそうとするよりも、あえて二人で一緒に難しいことにチャレンジして、努力や達成感を共有することで二人の関係に刺激を与えることのほうが大事、ということらしいです。ふむふむ。確かに、その人と一緒にいることで、自分がよい自分でいられる、そしてさらによい人間になろうという気持ちにさせられる、ということはとても大事ですね。お互いへの愛情はとてもたくさんあるのに、なぜか一緒にいるといがみ合ってばかりいて、自分の嫌なところばかりが出てきてしまう、という相手もいるのに対して、この人と一緒にいるときの自分はよい自分である、一緒にいることでお互いのよいところを引き出し合える、と思える相手もいます。それはもう相性とか「ケミストリー」という言葉でしか表現できないものなのかもしれません。

ちなみに、「コミットメント」をはじめとして、この記事に出てくる表現の多くは、来月新潮新書から発売になる私の新著『性愛英語の基礎知識』を読むとよくわかります。(笑)これは『新潮45』に連載していたエッセイをまとめ加筆したものです。発売の頃にまた宣伝いたしますが、その予習としてこの記事を読んでみるといいかもしれません。(笑)

1 件のコメント:

Katsuhisa さんのコメント...

S.I.ハヤカワ著「ことばと人間」(紀伊国屋書店、1980年刊)の95pに、著者からの忠告として、次の文章が書いてあったのを思い出しました。
「あなたたちが、そんな楽しい時をいっしょに過ごしているのは、すばらしい。けれど、あなたたちが何か重大な問題に、いっしょにぶつかるまでは、結婚してはいけない。それも、あなたたちの間の個人的な問題ではなく、あなた方の周囲の世間から出た問題でなければいけない。もしこの問題に直面したときに、お互いに相手から力を得ることができたら、そして、お互いの情緒的な、また知的な能力を発見して、お互いを尊敬する気持ちが増すならば、たぶんあなた方は、お互いに、いっしょになると定められていたことになるだろう。」原著は、Through the Communication Barrier: On speaking, Listening and Understanding. S.I.Hayakawa

桂茶