2011年4月16日土曜日

ネコ好きにも映画好きにも、そしてネコも映画もとくに好きじゃないけど知的好奇心は旺盛な人にも 宮尾大輔『映画はネコである』

昨日届いて、封を開けてから楽しくて一気に読んでしまったのが、『映画はネコである はじめてのシネマ・スタディーズ 』。私の大学の後輩でずっと仲良くしている宮尾大輔くんによる、できたてほやほやの新著です。友達の著作だから言うわけではなく、ほんとにこの本は素晴らしい!

さまざまな形でネコが登場する映画8本を中心にして、シネマ・スタディーズとはどんな学問かを楽しく明快に解説してくれる本なのですが、まずはネコという着眼点が面白く、それだけでネコ好きな読者にはたまらない。(ちなみに私は、自分は特別にネコが好きだというわけでもないのですが、不思議とネコには好かれることが多い。人の家に行くと、「うちのネコは愛想が悪くて、人が来ても全然寄り付かない」と家主が言っているそばから、そのネコが私のところにやってきてはさっさと膝の上に乗って落ち着いていたりする。この本の著者の宮尾くんがブルックリンに住んでいたとき、数日間泊めてもらったことがあるのですが、これまた人見知り激しく人が来てもどこかに隠れて姿を現さないという今は亡きヂカも、私が泊まった初日の夜から、私の枕元で一緒に寝ていました。人間の男性も、同じようになついてくれたらいいのにと思うことしきり。)そんなこと今まで考えてみたこともなかったけれど、そう言われてみると、なんらかの形でネコが重要な役割を果たしている映画はけっこう多く、その役割を詳しく見てみると、ネコやそれぞれの映画のことだけでなく、映画というものの技術的・芸術的・心理的・歴史的・社会的な構造がいろいろとわかってくるのがなんとも面白い。

ネコ映画を通じて、フレーミング、ライティング、エディティングといった映画の基本的な技術を解説してくれるその文章は、わかりやすく親しみやすく、そこで語られている映画を観たことがない読者にもとても興味深く読める(全8章で取り上げられている映画のうち、私が観たことがあるのは、最初の『ティファニーで朝食を』と最後の『ミリキタニの猫』だけ)。楽しいながらも情報量が多くて、これを読むだけで映画についての理解度がずいぶん深まり、これから映画を観るときは、単に物語の筋の面白さだけでなく、技術的なことにも目がいくのは確実。(ちなみに私は、宮尾くんがこの本を執筆中、『ティファニーで朝食を』の章の草稿を読ませてもらったのですが、あまりにも面白かったので、20年ぶりに『ティファニーで朝食を』を再び観て、「180度ライン」のシーンは何度も巻き戻して確認してしまいました。)とりあげる映画のセレクションも素晴らしい。とくに映画通ではない読者でも観たことがあるであろうハリウッドの古典『ティファニーで朝食を』から始まって、ヨーロッパや日本、韓国の映画、そして2001年9月11日のテロ事件を見つめる日系人画家を扱ったドキュメンタリーまでと、時代や文化やジャンルも多様だし、それぞれの章で展開される、作家主義、ジャンル論、映画史などの解説も、素人にわかりやすく平易でありながら、かつ、しっかりとした専門的知識に根ざしていて読み応えがあります。

最終章でとりあげられている『ミリキタニの猫』は私はニューヨークに住んでいたときに劇場で観て、身体が揺さぶられるような体験をしたのを覚えています。この章では、この映画が捉える日系人画家ジミー・ミリキタニと、宮尾くん自身が研究対象として長年追ってきた映画スター早川雪洲と、早川そして戦時中強制収容所に送り込まれた日系アメリカ人の姿をとらえた写真家宮武東洋と、そしてアメリカで日本人として映画研究を続ける自分の姿を、文章上の「クロスカッティング」で重ね合わせながら、歴史を見つめるネコ、そしてネコを大事に飼っているのだか、ネコにいいように使われているのだかわからない人間たちのありかたを捉えている。まさに、視点と枠の設定(フレーミング)、光と焦点の当て方(ライティング)、語りの構築(エディティング)といった映画の技術を使った見事で感動的な文章です。

なんといっても、著者のネコへの愛情、そして映画への愛情が、とてもよく伝わってくる。この本で扱われている映画も、その他のたくさんの映画も観たくなるし、ネコを見かけたら思わずじーっと観察してしまいたくなります。是非どうぞ!

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