そして、明日はいよいよ選挙。一時はどうなるかと寿命が縮まる思いでしたが、ハリケーンへの対応によってオバマ大統領の再選見込みは助けられているような感触。それでも、もしもロムニー氏に転んでしまったら、最高裁判事の任命など、長期的に非常に大きなインパクトが予想されます。今回は時間がなくてあまり選挙戦に参加できていないのですが、明日は2008年同様、友達と集まって選挙の結果を見守る予定です。
さて、それとはまるで関係ないのですが、今週末に観た映画がたいへん面白かったのでご紹介。Diana Vreeland: The Eye Has to Travelという映画で、20世紀のアメリカ文化においてもっとも影響力をもった女性のひとりとされる、Diana Vreeland (1903-1989)の生涯と仕事と人となりを追ったドキュメンタリーです。
Diana Vreelandは、『ハーパース・バザー』誌のファッション欄担当の編集者を長年務めた後、『ヴォーグ』誌の編集長として、ファッション界の女王の座を占めた人物。『ヴォーグ』誌のポストを失った後は、メトロポリタン美術館の衣装研究所のディレクターとして、メトロポリタン史上初めて存命中のデザイナーを扱った展示を開催したり、美術とファッション・風俗の境界に挑戦を挑むような企画を次々と立ち上げて話題を呼びました。このメトロポリタンの職についたのは、彼女が70歳を迎えた後だったというのだから、そのバイタリティとクリエイティヴィティに脱帽。ファッションや写真を芸術の域まで高め、ジャクリン・ケネディのファッション・アドバイザーをつとめ、ツイッギーやシェールをデビューさせ、標準的な美人とはいえない女性たちの個性を前面的に押し出してその魅力を伝え、奇抜な構想でふんだんに予算を使ったファッション写真を次々に世に出していった彼女。読者が最初のページから最後のページまで順に通して筋を追うのではなく、あちこちに目を飛ばしながら瞬間的・断片的な新鮮さ・面白さをつかむという雑誌という媒体の特性をぞんぶんに活かして、雑誌そのものの価値を高めたという功績も。
映画はまさにその雑誌のような編集になっていて、何十年ものあいだに彼女がテレビ番組などでさまざまなジャーナリストたちと行ったインタビューの数々を切り貼りすることで構成されている。ゆえに、ひとつのテーマが徐々に展開されるとか、筋道だった物語があるとかいうわけではなく、話のなかには謎に包まれたままのこともあるのですが、それはそれでむしろ面白い。なにより魅力的なのが、Vreelandの人柄です。子供の頃は、妹と比べると容姿が悪いとして母親に可愛がられなかった、という彼女。映画にも登場する何人もの人がいうように、たしかに古典的な美人ではないかもしれない(とはいえ、とくに若い頃の写真をみると、ものすごーい美人のように私には見えますが)けれど、確固とした自分をもち、言いたいことを強くもち、それを堂々と人々に伝え、好奇心旺盛で偏見や因習にとらわれず、面白いことにはなんでも飛びついていく、その姿には、とてもインスパイアされます。いろんな意味でハチャメチャな人物なのですが、ハチャメチャのなにが悪い、と思わせてくれるような魅力と確信が彼女にはあります。日本で公開予定があるかどうかわかりませんが、機会のあるかたは是非観てみてください。