米国議会では、移民法改正の一部として、非合法移民にも合法移民になるための機会を与え、いずれはグリーンカードも取得できるようにする、という法案が議論されていますが、そうしたなかで、私の勤務するハワイ大学で、非合法移民で、一定の条件を満たす学生には、州民向けの授業料を提供する、という決定が理事会でなされました。カリフォルニアやニューヨークを初めとする他の12の州ではすでに同様の方針が施行されています。
アメリカの州立大学では、州の住民に教育の機会を提供するのが使命、という原理で、州の住民(「州の住民」の基準は州によって異なります)の授業料は州外からの学生よりもかなり低額に設定されています。ハワイ大学では、州外の学生の年間授業料は約2万2千ドルなのに対して、州民の学生は約9千ドルと、倍以上の違いがあります。これまで、非合法移民の学生は、「州民」としての基準を満たさないとして、州外の学生の授業料が課されてきました。しかし、たいていの非合法移民の学生は、自らの意思で「非合法移民」になったわけではなく、子供のときに親などに連れられてアメリカにやってきて、何年もアメリカで生活し、学校に通い、英語を学び、自分と家族のためになんとか安定した生活力を身につけようと一生懸命勉強しようと大学にやってきている若者。そして、そうした若者たちの多くは、州外学生向けの授業料がまかなえないために、大学進学をあきらめる場合が多い。そうしたなかで、移民たちの経済的・社会的上昇を可能にするもっとも重要な要素として機能する大学が、このような経済的な負担をこれらの学生に課しているのは理不尽である、との判断で、授業料の適用方針が変更された次第です。現在在籍中の学生でこの決定によって授業料が大幅に減額となるのは10人にも満たないけれども、長期的には、この変更によって大学進学が可能になる学生の数は300人ほどにもなるとの予測。
「大学として絶対的に正しいことをしたまで」と理事は発言していますが、この記事で言及されていないのは、この決定にいたるまでのプロセス。この理事会で全会一致で支持されたこの案は、理事会の内部から出てきたものではなく、Unruly Immigrants: Rights, Activism, And Transnational South Asian Politics in the United Statesという南アジア系の移民たちのトランスナショナルな社会運動についての研究の著者で、私の仲良しでもあるMonisha Das Gupta率いる、エスニック・スタディーズ学部の教授陣や学生たちが、この案を作成し、大学じゅうをまわって署名を集め、さまざまな委員会での審議を経て今回の理事会までもっていった、という経緯。私のクラスにも、この署名運動をリードしている学生ふたりがプレゼンテーションをしにやってきて、私の学生たちと活発なディスカッションをして、署名をたくさん集めていきました。教授が、若者に大学教育の機会を与えるためのこうした運動に献身し、このような具体的な成果をあげるのも本当に立派なことだと頭が下がりますが、学部生たちがこうした活動に一生懸命にかかわる姿を見るのも、心を打たれます。こうやって確実な成果があがることで、彼らは社会運動の意義をあらたな形で理解することでしょう。パチパチ。