で、その展示は、そのタイトルの通り、絵本の黄金時代といわれる1920年代から1930年代のアメリカとソ連の絵本の展示なのですが、なかなか面白いです。歴史・社会的な背景の解説にかんしては、ソ連の部分のほうがアメリカの部分よりも分析的で充実していると思いましたが、全体としては、まさに絵本を通して子どもたちに世界像を示すという熱のこもった多様な絵本が見られてよかったです。ただ、いくつか注文をつけるならば、(1)なぜソ連の部分で、順路が革命後のソ連からロシア時代に逆行するようになっているのかが不明、(2)作家や出版についてだけでなく、流通や消費、つまり、これらの絵本がどういった読者層や子どもたちにどのような場でどのような形で読まれていったのか、という説明もほしい、(3)絵本の中身が展示してあるところでは、文の訳や物語りのあらすじの要約がほしい、(4)せっかく子ども図書館での展示なのだから、もう少し子どもに親しみやすい展示の作りにしたらどうか、といったところ。もっとも、(4)にかんしては、明らかにこの展示は子どものためのものではないので、見当違いの批判かもしれません。この展示は、あと一週間で終わってしまうので、興味のあるかたはお早めにどうぞ。来月からある「日本の子どもの文学」という展示も面白そうなので、また行こうと思っています。
しかししかし、この図書館は展示を観るためだけに行くのはあまりにももったいない。3階の「メディアふれあいコーナー」では、コンピューター画面で観る「絵本ギャラリー」というものがあり、私はこのごく一部を観ただけですが(それでも画面の前にゆうに15分以上は釘づけ)、これが拍手をしたくなるくらい実によくできている!実在の絵本をもとに、さまざまな視覚・聴覚的な工夫が凝らされていて、子どもも大人もとても楽しめるし、それぞれの作品についての解説なんかもじっくり読めます。私はこの「絵本ギャラリー」を全部観るために通い続けたいくらい。そして、2階の資料室では、日本そして外国で刊行された児童書や関連資料があり、所蔵資料の大半は書庫にあるらしいのですが、開架の部分だけでも、驚くべき数と種類の本が手に取って見られます。よくもここまで集めたものだと思うくらいの世界の絵本(北朝鮮の絵本とか、アゼルバイジャンの絵本とか、パキスタンの絵本とか、字は読めなくても眺めるだけでもたいへん面白い)や、大正・昭和の日本の児童書、唱歌集(「赤い旗」というプロレタリア童謡集を私は床に座り込んで読んでしまいました)などなど。児童文学や翻訳文学にかんする研究書もそろっています。
というわけで、子ども図書館でありながら、知的な刺激に満ちた大人の遊び場みたいなところです。もちろん、実際に子どもを対象にしたさまざまな工夫もなされていて、1階の「子どものへや」や「世界を知るへや」では、実際に子どもがありとあらゆる本を手にとってゆっくり読める(貸し出しはなし)ようになっているし、おはなしや読み聞かせなどのイベントも開催されています。しかも無料(展示も入場無料です)!文化政策の研究をしている身としては、日本の税金がこういう結構なものに使われていることを知るのはたいへん嬉しく、「おー、日本も頑張っているなあ」という気持ちになります。こんなところで、展示やイベントの企画をする仕事ができたらどんなにか楽しいでしょう。
というわけで、せっかくある素晴らしい施設ですので、是非とも足を運んでみてください。