その本は、私の友人であるHokulani Aikauによる新刊ほやほや、A Chosen People, a Promised Land: Mormonism and Race in Hawai'i。副題からも明らかなように、ハワイにおけるモルモン教を扱った研究です。ハワイに来たことのある人は、オアフ島北部にあるテーマパーク、ポリネシア文化センターが、モルモン教会によって運営されていて、センターでガイドをしたり踊りを披露したりしているのはその隣にあるブリガム・ヤング大学ハワイ校で学ぶモルモン教の学生たちであるということを知っている人も多いかもしれませんが、そのポリネシア文化センターやブリガム・ヤング大学ハワイ校のあるライエという町は、19世紀半ばから宣教師たちと先住ハワイ系の信者たちがモルモン教徒の共同生活の場として築いてきたコミュニティです。ハワイの外にも、先住ハワイ系や他のポリネシア系のモルモン教信者は数多くいて、この本の著者も、ユタ州のポリネシア系モルモン・コミュニティで育った人です。大学に進み、ハワイ植民地化の歴史やモルモン教会の人種力学などを学ぶにつれ、組織としてのモルモン教会からは離れるようになった彼女ですが、モルモン教徒としての生い立ちと、先住ハワイ系としてのアイデンティティのあいだの関係を理解しようとして取り組んだのが、この研究。彼女は現在はハワイ大学の政治学部で教えていますが、ミネソタ大学のアメリカ研究学部で博士号をとっているので、研究手法的には、私にとてもしっくりくるものです。
きわめて「アメリカ的」な宗教でありながらも、アメリカ社会においてはマージナルな位置づけにあるモルモン教会が、なぜハワイという土地でこれだけ定着しこれだけのハワイ系の人々を信者として獲得したのか。20世紀後半に至るまで、教会のポリシーとして黒人を排斥・差別してきたモルモン教会のなかで、ハワイ系の人々が「選ばれた民」と位置づけられ、ハワイのミッションではハワイ系の信者にもかなりのリーダーシップが与えられたのはなぜか。近代化の流れのなかで、ライエのコミュニティがより資本主義と観光の論理で動くようになるにつれ、教会はハワイ系の人々にとって決してよいものとはいえない方針をいくつもとるようになったにもかかわらず、ハワイ系の信者たちがそれを自主的に受け入れた(ようにみえる)のはなぜか。ポリネシア文化センターでの観光客向けに自分たちの「文化」を商品化することに、なぜ彼らは抵抗しない(ようにみえる)のか。1970年代から興隆したハワイ文化ルネッサンス運動のなかで、このような形での「文化保存」をハワイ系のモルモン教徒たちはどう考えているのか。といった問いに、歴史史料分析とエスノグラフィーを通して、ニュアンスをもって丁寧に答えている本です。
その分析の中心にあるのが、faithfulnessという概念。そしてその信仰は、教会という組織によって、人々を管理したり利用したり搾取したりする手段となる場合もある。しかし、信者たちは盲目に信仰しているのではなく、教会という組織内での人種関係や、観光という産業に内包される力学についてもじゅうぶん理解しながら、自ら選んだ信仰を通じて、自分の状況を理解する世界観を構築し、ときにはその信仰を通じて、自分たちのコミュニティやそして教会そのものをよりよいものにしようと、声を発し、行動を起こす。そうした主体性が、単なるfaithではなくfaithfulnessという単語にこめられています。
私は読みながら、このfaithfulnessという概念は、Musicians from a Different Shoreで私が言おうとしていることと結びつくなあ、などと考えていたのですが、そのコネクションを理解してくれる人はどれだけいるでしょうか?ともかく、ハワイ、人種、宗教、といったことを新たな視点から考えるには素晴らしい本です。また、ロムニー氏が大統領候補になっていることでモルモン教にもさらなる注目が集まることでしょうから、モルモン教のこういう側面も知るのも興味深いと思います。