2011年5月5日木曜日

ラフォルジュルネのタイタンたち

震災の影響でいったんキャンセルとなり、その後再びプログラムを組み直して開催されたラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに、3日間続けて行ってきました。前回まではどんどんと規模拡大を続けていたのが、今回は大幅に縮小したイベントとなり、去年と比べると会場全体の雰囲気もずいぶん寂しい感はぬぐえませんでしたが、それにしても、この状況下でとにもかくにも開催にこぎつけたことだけでも大拍手!いったん来日をキャンセルしたアーティストたちが、やはり演奏に来てくれたということ、小さな子どもたちを連れた家族たちや根っからのクラオタたちが空間と時間をともにすべく足を運んでくれたということ、それ自体に、運営事務局の人たちは大きな感動をおぼえたのではないかと思います。「タイタンたち」というのが今回のテーマでしたが、今回のラフォルジュルネのタイタンたちは、まさに運営事務局の人たちと、度重なる予定変更にも動じず素晴らしい演奏を提供してくれた音楽家たちだと思います。

私が行ったのは、初日のテノール、ハンス・イエルク・マンメルによるマーラーとシューマンのコンサートと、二日目のヴァイオリニスト竹澤恭子さんのブラームスのソナタ2番と3番のコンサートと、今日のクラリネット奏者ロマン・ギュイヨを中心とするブラームスのクラリネット・ソナタとクラリネット五重奏のコンサート。

マンメルの歌はとてもよかったけれど、会場の音響があまりにも悪くて気の毒なくらいでした。もともとラフォルジュルネで使う会場は、音楽演奏のためにデザインされた空間ばかりではない上に、今回はもともと使う予定だったのに地震の影響で使えなくなったホールもあったため、こうしたことは仕方のないことなのだと思いますが、第一級の演奏を実現させるということと、クラシック音楽をなるべく広い聴衆層に届けるということのあいだのバランスのとりかたが、なかなか難しいとあらためて実感。

竹澤恭子さんのコンサートは、文句なしに素晴らしかった。こちらは、ヴァイオリン・ソナタの演奏にはホールがちょっと大きすぎるのではないかという気もしましたが、そんな思いは初めの数分ですぐに消えてしまいました。竹澤さんの演奏は、いつもしっかと地に足がついていて、自分の声をもっていて迫力があるのですが、今回の演奏も、実に優しく繊細でもあり、情熱的でもあり、聴きながら鳥肌が立って涙が出そうになったり、思わず「か、か、かっこいい〜!」と言ってしまいそうになったりで、本当に素晴らしかったです。本当はアン・ケフレックと共演する予定だったのがキャンセルになり、直前までピアニストが決まっていなかったのに、そんなことはみじんも感じさせない見事なアンサンブルでもありました。ちなみに、私はMusicians from a Different Shoreの研究のさいにニューヨークで竹澤恭子さんをインタビューし、その抜粋が本に載ってもいますので、興味のあるかたはごらんください。

そして、今日のクラリネットのコンサート、これもとてもよかったけれど、この会場は実に久しぶり(子どものときになにかのイベントで連れて行かれたような記憶が漠然と...)に足を踏み入れたよみうりホール。ここはまた、今の東京にこんな古めかしい会場が残っているのかと驚くほど、昭和の香り漂うホール。東京国際フォーラムと一本道を隔てただけで、ここまで雰囲気の違う空間があるというのもなんだか面白い。あくまで演目で選んだ三つのコンサートですが、それぞれまるで違うタイプの会場で聴けたことで、違う種類の音楽体験ができたような気もします。