2012年9月30日日曜日

クライバーン・コンクールの50年

今年は、ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールが創設されてからちょうど五十周年です。クライバーン財団は、それを記念するコンサート・シリーズ(アマチュア・コンクールの入賞者たちを集めたコンサートも少し前に開催されました)などさまざまなイベントを企画・運営していますが、そのなかでも目玉のひとつである、ドキュメンタリー映画、『The Cliburn: 50 Years of Gold』が先日アメリカの公共テレビ局PBSで放映されました。そして、こちらのサイトで無料で映画まるごと見られるようにもなりました。

クライバーン・コンクールでは、四年に一度のコンクールのたびに、そのコンクールを追ったドキュメンタリー映画を制作していて、それぞれ面白いのですが、それらの映画では各コンクールについての映画という性質上、物語のは「誰が優勝するか」ということに焦点が当たりがち。それに対して、今回の映画は、1958年にクライバーンがチャイコフスキー・コンクールで優勝したことの歴史的意義、そして彼の功績を記念して設立されたクライバーン・コンクールをイベントとして育て上げたフォート・ワースの地域コミュニティのありかた、そしてコンクールに出場したり入賞したりすることで若いピアニストたちが演奏家としてのキャリアに巣だっていったか、ということのほうに重点が置かれていて、私が『ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール』で伝えようとしたこととよく重なっています。もちろん、2009年のコンクールの様子もあちこちに出てくる(28:45あたりで、辻井さんの後ろに立っている私の姿もちょびっと見えます)し、クライバーン・コンクールの顔となったホゼ・フェガーリ(この夏のPianoTexasで私がマスタークラスを受けた人です)やジョン・ナカマツ、オルガ・カーンなどのインタビューも沢山あって、楽しめます。そして、クライバーン氏自身が1958年のことを振り返るシーンなどもとてもよい。いろんなことを考えさせられる映画です。

前にもこのブログで言及したとおり、クライバーン氏は末期がんと診断され、現在は自宅でホスピスケアを受けているとのこと。来年のコンクールでは姿が見られないかもしれませんが、このドキュメンタリーが彼の存命中に放送されてよかった。