2013年10月18日金曜日

「非合法移民」の意味を追求する映画、DOCUMENTED

昨晩、現在開催中のハワイ国際映画祭の目玉のひとつとして上映された、DOCUMENTEDという映画を観て、その後この映画の主演・制作をつとめるJosé Antonio Vargasを囲んでのレセプションに参加してきました。たいへん考えさせられることの多い、インパクトの強い映画でした。

この映画は、Vargasみずからの生い立ちや家族の物語を通して、アメリカの移民制度、とくに「非合法移民」の扱いの問題点を追求するとともに、「アメリカ人」とはなにかを問うドキュメンタリー。Vargasは、アメリカに移住した祖父母に呼び寄せられて、非合法な米国入国を斡旋する業者のはからいで、12歳のときに単身フィリピンから渡米。子供ゆえ、自分の渡米の意味や法的な立場を理解するよしもなく、祖父母のもとで暮らしながらカリフォルニアでの生活に順応し、学校では成績優秀であらゆる課外活動で活躍する人気者となっていった。16歳のときに、自分が「非合法移民」であることを知った彼は、彼を応援する周囲の大人たちの支援のもとで、自分の夢を追求しながらアメリカ社会の一員として暮らしていく道を探るようになる。好奇心旺盛でさまざまな相手に「厄介な質問」をするのが好きだった彼は、大学ではジャーナリズムを専攻し、卒業後、ワシントン・ポストなどの一流メディアで報道にあたり、ピュリツアー賞も受賞するエリート記者のひとりとして活躍するようになったものの、それぞれの仕事の雇用の際、国籍・米国滞在資格については「アメリカ市民」と記入しながら、いつ事実が発覚して国外退去処分になるかとハラハラしながら10年以上暮らしていた。

さまざまな州での非合法移民の扱いや、連邦政府の移民法をめぐる議論が高まるなか、彼は2011年に自分が「非合法移民」であることを公開することを決意。高校の授業の最中に自分がゲイであることを告白した彼にとっては、2度目の「カミング・アウト」であったが、今度は、全国ネットのテレビ番組ですでに著名なジャーナリストとなった彼が「非合法移民」であるという事実を公開したことで、非常に大きな反響を呼ぶこととなった。自分の物語を通じて、移民法改正の議論に携わる政治家はもちろん、日常生活のさまざまな側面で非合法移民とかかわる一般の「アメリカ人」たちに、移民法のありかたについて考えてもらうきっかけを作ろうと、Vargasは、その後、自分の生い立ちについての長文記事をニューヨーク・タイムズで発表したり、各種メディアに出演したり、保守派の有力な地域で講演をおこなったりしながら、その様子をみずからドキュメンタリー映画として追っていく。その過程で、現在約1100万人と想定されるアメリカの「非合法移民」たちがその立場におかれるようになった経緯や生活ぶり、現行のアメリカ移民法の複雑さ、アメリカのさまざまな地域における人種をめぐる議論などが、多面的に映し出されます。そして、Vargasがフィリピンを離れてから20年間顔を合わせていない母親(本来は、息子を追って渡米する計画だったのが、移民ビザはもちろん、帰国資金が証明できないため観光ビザすら入手できず、フィリピンに残ったまま20年間が経過。渡米後数年間はVargasは母親と頻繁に文通をしていたものの、自分のアメリカでの立場に向き合うにつれ、そのような形で自分をアメリカに送り出した母親に対して冷たい気持ちを抱くようになった彼は、その後連絡を絶ち、ジャーナリストとして名を成してから母親がフェースブックで友達申請をしてきても拒否していた)とスカイプで対面するシーンには、とりわけ多くのことを考えさせられます。

「非合法移民」としてアメリカに居住する人々は、世界各地から来ているものの、とくにフィリピンは、米国植民地の歴史、マルコス政権期の政治経済体制、現在の経済状況などさまざまな要因で、とくにアメリカへの合法・非合法の移民を非常に多く送り出してきており、夫婦や親子が10年以上も離ればなれで暮らすことも珍しくありません。とくにアメリカや香港などでの家事労働者として働く女性たちは、自分の子供をフィリピンに置いたまま何年間も他人の子供の世話をすることで、フィリピンの家族を養うというケースが非常に多くなっています。こうした家族形態を生むグローバルな経済不均衡のなかで、人々がどのような経緯で、どのような思いで国境を越え、アメリカでどのような暮らしを送り、「アメリカ人」からどのような扱いや視線を受けているのか、「非合法」な人たちが「合法」な立場を手に入れることがなぜできないかが、生身の形で伝わってくる映画です。

上映後のレセプションでは、Vargasおよび司会者の意向で、参加者全員「移民」をめぐる話をtシェアし、さまざまな物語が交わされました。サモアやメキシコから非合法移民として入国して10数年がたつという人たちや、合法的な移民でありながらもアメリカ国籍に帰化する手続きに15年かかっているという原始物理学者を母親にもつという人の話を聞きながら、ハワイという、移民とその子孫が人口の大多数を占めている場所でも、現在移民法によってさまざまな形の差別が存在し、それと同時に合法的にこの土地で暮らしている人たちがそうした非合法な人たちの労働に依存している、という状況を、改めて実感しました。

「移民」とくに「非合法移民」というカテゴリーそのものが身近でない多くの日本の人たちに是非みてもらいたい作品です。