2009年12月7日月曜日

既婚者は読むべし

「既婚者は読むべし」と未婚者の私に言われてもまったく説得力がないかも知れませんが、まあそれはよしとしましょう。今週末のニューヨーク・タイムズ・マガジンのメイン記事で、同紙のなかで「その日にもっとも読者が知人にメールした記事」の一位になったのが、この記事。Married (Happily) With Issues、すなわち、「問題を抱えながら(幸せに)結婚生活を送っている」、という意味のタイトルです。結婚して9年になる著者が、とくに危機を迎えているというわけではないけれども、なんとなく仕事や子育てや日常の雑事のなかでマンネリ化したり受身になったりしてしまいがちな夫婦関係を、より活性化しようと思い立って、渋る夫を駆り立てて「結婚生活活性化」を試みる、その体験にもとづいたエッセイです。私は自分が結婚していないからこそ、多少距離をおいて「なるほどねえ、そういうもんだろうねえ、ふむふむ」などと面白がって読んでいますが、既婚者、それも結婚して5年以上がたつ既婚者にとっては、読んでいて心理的になかなか疲れるエッセイかもしれません。それでも、この記事が「その日にもっとも読者が知人にメールした記事」になっているということは、やはりたいへん興味をもって世界の読者が読んでいるということですから、一読の価値はあるでしょう。(ただし、ニューヨーク・タイムズ・マガジンのメイン記事がたいていそうであるように、かなり長文の記事です。このブログで何度も書いているように、こういう記事がこういう媒体に載るということだけでも、アメリカのメディアのすごさを感じます。まあ、長いですが、英語はそんなに難しくないし、愉快で面白いですので、どうぞ。後半にはセックス活性化の話題もあり。)

「結婚生活活性化」のために、著者は、結婚生活のハウツー本を買ってきて、それに載っている課題や練習問題に夫と一緒に取り組んだり、カップルズ・セラピー(こういうものに通うアメリカ人カップルが少なくないことは『ドット・コム・ラヴァーズ』でもちらりと言及しました)に通ったりと、なんとも懸命な努力をします。そうした「課題」のなかには、アメリカではよく知られているものもあるし、「なるほどねー」と思うようなものもあります。カップルズ・セラピーでよく課される「練習」は、二人でセラピストのオフィスで座っているときに、一人が、自分の今の気持ち(相手にxをされたときに自分がどういう気持ちになるか、ということでもよい)を正直に言う。このときに、あれやこれやと理屈を言って「考え」を述べるのでなく、自分の正直な「気持ち」「感情」を述べることがポイント。(たとえば、「私はあなたが私の話をうわの空でしか聞いてないような気持ちがする」とか、「僕がなにをやっても君には気に入ってもらえないような気持ちがする」とか、「あなたと話していると、私が自分の親や友達と時間を過ごすことがまるで悪いことみたいな気持ちにさせられる」とか。)そして、その直後で、もう一人が、今その相手が言ったことをそのまま繰り返して言う。そのときに、相手の言うことについての自分の反応や意見は一切挿入せずに、今自分が聞いたことをただそのまま繰り返すことがポイント。このエクササイズを何度か繰り返すことで、二人は、相手の言っていることにきちんと耳を傾けているか、言おうとしていることや気持ちを本当に理解しているか、どれだけオープンな気持ちで相手のことを受け入れているか、ということが試される、とのことです。何回か繰り返すどころか、一人が言ったことに対して相手が即座に反論を始めて大喧嘩が始まり修羅場になる、ということも少なくないらしい。確かに、なかなか苦痛ではあるけれども、練習としては効果があるような気はします。他にこの記事で出てくる「練習」は、「あなた/君が...してくれるときに私は愛されて大事にされているんだという気持ちになる」という文の...に入る言葉をなるべくたくさん考えて、完成させた文を相手に言う。また、恋愛初期の頃のことを思い出して、「あなた/君が...してくれたときに私は愛されて大事にされているんだという気持ちになった」という文も作る。などなど。

こういう「練習」は、当然ながら、自分そして相手の心の深い奥底に、ときには故意に、ときには無意識のうちに、埋め込んであった、感情やら過去の経験やらコンプレックスやらを掘り起こすことになって、そうした現実にきちんと立ち向かった上で人間関係や愛情を築き直すということにおいては重要ではあるけれども、それと同時に、しまって整理がついていた(と少なくとも思っていた)ものをわざわざ掘り返すことで不必要にことをややこしくしたり傷つけ合ったりしてしまうこともじゅうぶんありうる。それがうすうすわかっているからこそ、多くの人はこういう改まった「活性化」作業を避けて何年も、ときには何十年も、「なんとなく」の結婚生活を続けるのではないでしょうか。それで日常生活も自分の精神状態もふたりの関係も円滑にいっているのなら、それで悪いということはないでしょう。が、この著者はある日、「仕事や友達関係や子育てに関しては、優等生の私はつねに『努力』をしてきた。なのになぜか結婚生活に関しては『努力』をするということを思いつかなかった」ということに気づき、ひとつのプロジェクトのようなつもりで、「結婚生活を充実させるための『努力』」に励むことにした、とのこと。ここで、えへん、『ドット・コム・ラヴァーズ』より引用:

どんなに似通った背景で育った二人でも、結局は別の人間なのだから、恋愛初期の、どきどきわくわくでいっぱいの時期を超えて、長期間の深い関係を続けていくためには、相手を理解する努力を続け、二人の関係をつねに評価し合わなければいけない。どんな関係でも大小いろいろな問題があるのは当然で、そうした問題から目をそらすことなく、二人で向き合って乗り越える努力を続けなければいけない...
付き合い始めの頃には、自分のことを気に入ってもらおうとしたり相手を幸せにしようとしてせっせと努力をするが、いったん結婚したら、よくも悪くもその関係は一生続くものとの前提のもと、そうした努力をさっぱりやめてしまう男女は、世の中にたくさんいる。そこまで極端でなくても、多くの人は、ステディな関係に入ったり結婚したりしたら、だんだんと相手の存在と愛情を当然視するようになって、関係を深めるためあるいは維持するための意識的な努力を減らしてしまうのではないだろうか...(231−232)

というわけで、結婚しているかたは、是非この記事を読んでみてください。ちなみに、セックスライフの部分は、他の「練習」よりも意外なほど簡単に「活性化」に成功したらしいです。(笑)

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