普段の本拠地ホノルルに戻ってきました。空港で荷物を受け取るときに、必死になって荷物を詰め込んだ大きいほうのスーツケースを他人に持っていかれる(空港に残されていたその人のスーツケースはまったく同じデザインのものだったので間違えてもおかしくはないのですが、それにしても、名札がついているのだから持ち去る前にチェックしそうなものです)というハプニングがあり、いきなりがっくり。数時間後に私が家でシャワーを浴びているあいだに、私のスーツケースを持って行った人から留守電に伝言があり(名札に書いてあった番号を見てかけてきたのでしょう)、「あなたの荷物を持ってきちゃったみたいです、ごめんなさい、私の荷物がそちらの手元にあるのでしたら、中はごちゃごちゃなので見ないでください」と言ったまま、名前も連絡先もメッセージに入れずに切れている。どうしようもないのでそのまま昼寝(飛行機のなかで角田光代『庭の桜、隣の犬 』を読んでいたらほとんど眠れなかった)し、数時間後に荷物は自宅まで届けられました。日本の宅急便のようとまではいかないまでも、意外にてきぱきした対応でした。
到着以来一日半がたったところですが、一年間の日本生活を経てから戻ってくるホノルルでの生活は、なんとも不思議な気持ちがします。自分のモノがいっぱい詰まった自分のマンションに戻ってきて、自分の車を取り戻し、よく知った道を運転して行きつけのお店に行って用を足したり友達と食事をしたりするのですから、もちろんほっとする部分も大きいですが、それと同時に、十年以上住んでいるうちにすっかり慣れて当たり前になっていたことが、今度はいろいろと新鮮に感じられます。こういうことは、少したつとまた慣れて忘れてしまうので、それを新鮮と感じているうちに書き留めておきましょう。最初の36時間にとりわけ印象に残ったことを挙げてみると...
1.道ですれ違う人、エレベーターで乗り合わせた人、店で目が合った人などが、にこりとしたりHiと挨拶すること。日本でのそういったやりとりの不在が私の目には奇異に映ったぶん、今度は逆に、人がそうするということが新鮮に思えます。
2.いろんな種類の人がいること。ほんとうにまあ、サイズにしても形にしても色にしても、よくもまあこんなにたくさんの種類の人がいるなあと思います。ニューヨークやカリフォルニアと比べたら、ハワイの多様性はより限定されたものですが、それでも、アラモアナ公園を30分間ジョギングしているだけで、一年間まるで見なかった人たちがたくさん見られ、なんともいえない新鮮さと解放感をおぼえます。
3.英語を話すのに、自分の頭が普段より10%くらい多くのエネルギーを使っているのに気づくこと。日本にいるあいだも、授業は留学生を相手に英語で授業をしていたのだし、ニュースなどはインターネットを通じて英語のものを読んだり見たりしていたので、それほど英語から遠ざかっているとは思っていませんでしたが、すべてが英語の生活に戻るには、頭がギアチェンジをしないといけないんだなあと認識して、ちょっとびっくりしました。英語が口から出てこなくて困るということはとくにないのですが、そうしたことよりも、「この人は日本という文脈を共有しないんだ」という前提を意識して話をすることに、ちょっとしたエネルギーを要するからだと思います。
4.店で出てくる食事の量が多いこと。これは、日本人が初めてアメリカに行くときによく言うことですが、かれこれ21年間もアメリカに住んでいる自分が今さらこのことについて驚くことが自分で驚きでした。が、ほんとうに多い。せっかく天気のいいハワイに戻ってきたのだから、健康的な生活にしようと、今日の朝食は近所の行きつけのコーヒーショップ(ちなみに『ドット・コム・ラヴァーズ』の「ジェイソン」は毎週土曜日にこのお店でボーイフレンドと朝食をしています。一緒に住んでいるのに、毎週こうしてわざわざ近所のお店に朝食に出かけて片方がご馳走するというふたりの儀式が、私にはとても心温まるし羨ましいです)で「フルーツとグラノラとヨーグルト」のボウルとコーヒーを頼んだのですが、それで出てくるのがこの写真のもの。かなり頑張ってなんとか食べ終わりましたが、その数時間後には友達とランチでルーベン・サンドイッチを食べることになり、これまたかなり努力をして食べ終わりました。
5.なにしろ快適なこと。日中の最高気温は26度くらい。我が家にはエアコンがないのですが、窓を少し開けておくだけで気持ちのいい風が入ってきて、きわめて快適。夜ももちろんぐっすり眠れます。あまりにも気持ちいいので、東京が暑いのを口実に長らく運動をさぼっていた私は、これで運動しなければ罰が当たるだろうと、夕方さっそくジョギングに行ってきました。しばらくさぼっていたおかげで、すっかり体力が低下しているのを実感しましたが、青空のもと海を見ながら夕暮れ時にジョギングできるなんて、なんて幸せなんでしょう。
6.よしとされている(らしい)男性像が日本とまるで違うこと。日本に着いたばかりのときに、日本のサラリーマンがすっかりかっこよくなっていることに驚き、また、日本の男性の過半数がゲイに見えることに驚いたものですが、しばらくしてそれに慣れてからこちらに来てみると、同じ「かっこいい」男性でも、体格やら姿勢やら身のこなし(とくに歩き方)やら顔の表情やらが、日本とはまったく違うのが新鮮です。街を歩いている人を見ても、テレビを見ても、それはあきらか。もちろん、よしとされている女性像もそれと同じくらい、あるいはそれ以上に違うのですが、それについてはまた後ほどゆっくり。
7.お年寄りが元気なこと。日本は長寿国ですから、もちろん元気なお年寄りもたくさんいますが、それと同時に、見ているだけで「そんなふうにしなくていいですよ」と言いたくなるぐらい、なんだか申し訳なさそうな様子でいるお年寄りも街には多い。社会や世相がそうさせているのでしょう。ハワイにだって、もちろん、家の外にも出られないくらい心身が弱っているお年寄りは違うでしょうが、少なくとも外で見かけるお年寄りは、姿勢も上向きで表情も明るく、声にもはりがあるような気がします。天候もあるでしょうが、とくにハワイのような島社会では、地縁血縁で結ばれたコミュニティが健全だから、というのが大きいのではないでしょうか。
というわけで、興味深い逆(どちらが「逆」なのかもうわからなくなってきましたが)カルチャーショックを味わいながらのホノルル生活再順応をスタートしています。また引き続きご報告します。