2010年10月10日日曜日

アメリカ人の宗教知識

しばらく前に、Pew Research Centerというワシントンのシンクタンクが、アメリカ人が世界の主要宗教についてどれだけの基本知識をもっているかという調査結果を発表し、話題になりました。さまざまな宗教的アイデンティティをもつ人に、各宗教の歴史、教え、主要人物などについての質問に答えてもらったところ、世界の宗教についてもっとも総合的な知識があったのは、無神論者/不可知論者だという皮肉な結果。でも、考えてみれば、アメリカのような社会で無神論者/不可知論者の立場をとるには、さまざまな宗教について意識的・批判的にものを考え勉強しなければいけないので、この結果は実際は当然といえば当然ともいえるでしょう。それについで成績がよかったのは、ユダヤ教、モルモン教、白人の福音主義プロテスタント、白人のカトリックの人々。比較的成績が悪かったのは、主流派プロテスタント、「とくになにも信仰していない」(これは「無神論者/不可知論者」とは別個のカテゴリー)、黒人プロテスタント、ヒスパニック系カトリック。こうした全体の結果の他にも、どのグループがなにを知っていてなにを知らないか(たとえば、聖書やキリスト教についての知識が多いのは福音主義プロテスタントとモルモンであるいっぽうで、世界の宗教、および社会における宗教の位置づけについての質問にかんしてもっとも成績がよかったのは無神論者/不可知論者とユダヤ教。宗教改革の主要人物が「マーティン・ルーサー」であると答えられたのは全体の半分未満(!)、インドネシアの人口のほとんどがイスラム教であると答えられたのは三分の一未満など)というデータもなかなか興味深いです。

この結果を受けて、ニューヨーク・タイムズの論説委員のNicholas Kristof(彼は以前ニューヨーク・タイムズの日本局長をしていた人物)が、過激派や原理主義に焦点をあてた「宗教クイズ」を昨日の新聞に載せています。Pew Research Centerの調査に使われた質問も、多くの日本人にとってはけっこう難しいのではないかと思いますが、これはさらに難しい。ちょっとやってみてください。

私は、日本の大学では、世界思想史と並んで、世界の宗教にかんする授業を必須にするべきではないかと思っています。学生に宗教心を植えつけるなどということが目的ではもちろんありません。ただ、キリスト教もイスラム教もユダヤ教も国の主流文化の一部ではなく、仏教や神道でさえ多くの人々にとってはきわめて漠然としたものである現代の日本において、今の世界で起こっていること、そして世界の人々が信条としていることを、きちんと理解するためには、少なくとももっとも主要な宗教についての基礎知識が必要だと思うのです。私自身、宗教にかんする無知は、アメリカを専門とする研究者としてはもちろん、ものを考えるひとりの人間として、かなり大きな欠陥だと思っています。実際に聖典を読みながら、主な宗教の歴史や教義や信仰様式、宗教間関係、宗教と政治、宗教と科学などについて、内容の濃い通年の授業が大学一年や二年のときにあったら、とても意義深いのではないかと思います。