2010年10月26日火曜日

アメリカの新型文化外交

冷戦さなかの1950年代や1960年代に、アメリカ国務省が積極的にジャズ・ミュージシャンなどを世界各地に送り出し、芸術文化を通してアメリカの自由と民主主義を宣伝する(という意味で、アメリカ国内でさまざまな形で強固な人種差別が残るなか、あえて黒人のミュージシャンが積極的に送り込まれたのもポイント)「文化外交」が推進されました。この歴史については、『Satchmo Blows Up the World』というたいへん興味深い本があり、ミュージシャンたち自身がどのように自らの立場やアイデンティティや芸術をこうした国策と折り合いをつけていったか(あるいはつけなかったか)に関して、ニュアンスに富んだ分析がなされています。アメリカ政府は2001年以来こうした文化外交に再び力を入れるようになり、10年間で文化外交に当てられる予算は約7倍にも増大しました。今年度はこの文化外交プログラムの一環として3つのダンス・カンパニーがアフリカ、アジア、太平洋、南米などに公演ツアーに派遣されています。

これまで文化外交は、このように音楽やダンスなどの舞台芸術が中心だったのが、オバマ政権が百万ドルをあてた新プログラムのもと、絵画や彫刻などの美術の分野でもいわゆる「文化大使」を派遣する、という発表がなされました。これによると、ブロンクス美術館が管轄となって、選ばれたアーティストたちが、パキスタン、エジプト、ベネズエラ、中国、ナイジェリア、そしてケニアのソマリア難民キャンプなどに派遣され、パブリック・アートを制作する、とのことです。

私は今、文化政策の日米比較について研究を始めているところなので、こうした形での政府と芸術の関わりにはおおいに関心があります。国のプロジェクトということで、アーティストたちの表現にどのような制約が加えられるのか加えられないのか、こうした文化交渉が芸術そのものにどのような影響を与えるのか、各地の市民が作品にどのような反応を示すのか、興味津々です。