そういうわけで私は、昨日の夜まではどんよりと落ち込んでいたのですが、今日になってにわかに元気に。その理由のひとつは、朝メールを開けると受信ボックスに、アマチュア・クライバーン・コンクールに合格したという通知が入っていたこと。正式な合格通知(ちなみにオーディションの倍率はほぼ2倍だったらしい。これが前回までのコンクールのときと比べて高いのか低いのかは不明)に加えて、「本物の」クライバーン・コンクールを見学したときに隣の席で仲良くなったジェリーさん(詳細は『ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール』をご覧ください)から既に「おめでとう」メールが届いていました。ロジンスキ氏の後任としてクライバーン財団長のポストについたDavid Worters氏とジェリーさんは友達で、オーディションの結果が決まってすぐに、ジェリーさんのところにわざわざ電話で「マリが受かった」と教えてくれたそうです。ジェリーさんは私がフォート・ワースに来るのをとても楽しみにしてくれているので、私の演奏がしょぼくても、少なくとも一人はファンがいるかと思うと心強いです。とにもかくにも、地震や原発のこと以外はなにも考えられない日々が続いていたなか、この知らせは素直にとても嬉しく、本番に向けてせっせと練習せねばならなくなったので、自分の精神衛生にとってもよいです。
今朝はその知らせをもってピアノの先生のところにレッスンに行きしごかれた後、こまばアゴラ劇場で、平田オリザ作・演出の『バルカン動物園』を観てきました。私は大学在学中に、こまばアゴラ劇場や当時存在した駒場小劇場でときどき演劇を観ていたのですが、日本のこうした小劇場で観劇したのは実に20年ぶり。そもそも演劇を観るのは好きだし、今は文化政策の研究上平田オリザさんの仕事には興味があるしで、私にとっては懐かしのアゴラ劇場に足を運んだのですが、これはとても素晴らしかった。1997年に初演された、脳科学をテーマとする作品なのですが、原発事故をめぐる作業や議論が進行中のさなかに、科学と倫理、遺伝と進化、生命と死などを扱うこの作品を観るのは、なんともいえない迫力がありました。いろいろなことを考えさせられるし、台本にも、若手の役者さんたちの演技にも、たいへんリアリティがあって(理系の研究室の雰囲気、いや、理系だけじゃなくて大学の研究室全般の、形容しがたくねちっこい雰囲気も含め)、満足度百パーセント。だいたい、ほぼ満員で50名弱の観客のために、20余人のすばらしい役者さんたちが肉迫した演技をしてくれる、それを2000円で観られるなんて、こんな贅沢なことが世の中にあるだろうか。多くの人々がまさに生死のあいだをさまよっているような状況のなかで、文化政策の研究なんてやっているのは、一部の恵まれたエリートにしか意味をもたないことについて理屈をこねているだけじゃないかという気持ちになることも多いのですが、こうしたときに、こうした舞台芸術に触れることで、文化や芸術というものの本質を改めて感じ取った気がします。作品の内容とはまた別に、人間が知や文化や芸術を創造するその現場にいられただけで、なんだかとても大きなパワーをもらいました。キャストは二組あって、私が今日観たのはBキャストだけれど、Aキャストでもう一度観たいくらいです。28日までやっていて、前売りはほぼ完売しているようですが、若干当日券も出るようだし、28日には追加公演もあるようですので、興味のあるかたは是非どうぞ。