2012年2月19日日曜日

行政命令9066から70年、そしてJeremy Lin

今日2月19日は、第二次大戦中にルーズベルト大統領が西海岸の日系人を強制収容する行政命令9066を発令した70周年記念日です。この行政命令によって、何十年間も西海岸で農業や造園業や小売商店などを営んできた日系移民そしてアメリカ国籍をもつ日系二世の11万人以上が、強制的に砂漠の真ん中などの人里離れた収容所に送られ、3年間を過ごすことになりました。この日系人強制収容の歴史は、法学・歴史学・政治学などの数多くの研究者が分析を続け、アジア系アメリカ研究の分野では今でもさまざまな視点から優れた研究が生み出されています。公民権運動の流れのなかで生まれた1960年代後期からのアジア系アメリカ人の社会運動のなかでも、日系人強制収容は大きな焦点となり、1988年にはレーガン大統領が署名した市民的自由法によって、国が非を認め、強制収容の被害者に謝罪し、ひとりにつき2万ドルの補償が支払われました。収容所生活を実際に体験した世代が徐々に亡くなっていくなか、この歴史をきちんと記憶に残していくためのさまざまな企画が各地で行われています。でも、日本では、意外にこの歴史を知っている人は少ないのではないでしょうか。というわけで、強制収容をめぐる研究書を、今では古典となっているものから最近のものまで数点、以下リスト紹介しておきます。

Years of Infamy: The Untold Story of America's Concentration Camps


Prisoners Without Trial: Japanese Americans In World War II



で、その行政命令9066から70年の今日、とくにアジア系アメリカ人のコミュニティのなかで大きな話題となっているのが、台湾から移民してきた両親をもつ、プロバスケのNew York Knicksの選手のJeremy Lin。『ドット・コム・ラヴァーズ』の最後の章で書いたように、私はバスケファンのボーイフレンドと同居していたときは、いろいろ教えてもらいながら一緒にテレビでバスケ観戦をしたのですが、その彼と別れてしまってからは再びさっぱり観なくなり、最近Jeremy Linがフェースブックなどでもしきりに話題になっているのをみても、「ふーん、そういう人がいるのか〜」くらいにしか思っていませんでした。でも、とくにここ数週間の騒ぎはただごとではなく、メインストリームメディアでも、彼の活躍を「狂気」を意味するinsanityにかけてLinsanityと表現して大きく取り上げられています。私はちょっと観てみようと思いつつ見逃してしまった今日の対Dallas Mavericks戦でも、見事な活躍をみせチームに勝利をもたらし、今や国民的ヒーローに。野球やゴルフではアジア人の活躍が増えてきていますが、プロバスケでアジア人が活躍するのは珍しく(『現代アメリカのキーワード』に項目のあるヤオ・ミンは昨年引退)、しかもLinはハーヴァード卒。アジア人にまつわるさまざまなステレオタイプを打ち破るめざましい成績をあげているなかで、アジア人に向けられる偏見は強固に残っている部分もあり、先日はスポーツ専門のネットワークのESPNが、携帯用のサイトでChink In the Armor(Chinkというのは、19世紀から20世紀前半にかけて中国人を指すのにしばしば使われた差別用語)という見出しでLinの話題を報じたことで、大きな抗議の声があがり、数時間後には局は謝罪文を発表し見出しを取り下げました。人種をめぐるアメリカの意識や言説は、依然として実に複雑です。