2012年2月3日金曜日

Susan G. Komen騒動にみる政治と女性の身体

ここ数日間アメリカで議論を巻き起こしているのが、Susan G. Komen for the Cureという団体。これは、姉を乳がんで亡くしたNancy Goodman Brinkerという女性によって1982年に設立され、乳がんの予防、治療、研究、乳がん経験者の支援などを促進するためにファンドレイジングをしさまざまな機関に助成金を与えている財団。トレードマークのピンクのリボンが、この財団の活動そして乳がん対策全般を支援する企業の商品などにもつけられて、社会全体で広く認識されています。今週火曜日に、この財団が、長年継続されてきたPlanned Parenthoodへの資金提供を停止すると発表しました。


Planned Parenthoodというのは、マーガレット・サンガーの避妊活動、そして国際的な家族計画運動の流れのなかで設立された、生殖医療や性教育、女性の身体の保護や健康促進のためのプログラムを無料または低料金で提供している機関。アメリカ全国に820以上の診療クリニックをもち、避妊、中絶、妊娠検査、性病の診断と治療、乳がんや子宮頸がんの検査、更年期障害対策などを、とくに低所得者そして低年齢の女性に向けて提供しています。1970年にニクソン政権下で家族計画の支援法案が成立して以来、連邦政府の資金もPlanned Parenthoodの運営資金の一部となっており、現在では予算の約三分の一が政府関連、残りが民間や個人からの寄付で構成されています。しかし、Planned Parenthoodが中絶を行っていること、そして法律により連邦資金は中絶に使用されてはいけないことから、中絶に反対する団体や共和党保守の議員たちがPlanned Parenthoodへの公的資金提供を停止するよう提唱してきました。こうした流れのなかで、Planned Parenthoodが公的資金をどのように使っているかを調査する活動をフロリダのCliff Stearns共和党議員が昨年9月に開始し、「政府の調査下におかれている団体に資金提供をすることはできない」との理由でSusan G. Komen財団は前年度は約68万ドル提供されていたPlanned Parenthoodへの助成金を取り下げる、と火曜日に発表しました。(ちなみに、私が敬愛する歴史家のJill Leporeが、昨年11月の『ニューヨーカー』誌にPlanned Parenthoodの歴史とPlanned Parenthoodへの公的資金提供をめぐる議論についてのとてもよい記事を書いています。ぜひともご参考に。)


この発表に対して、pro-choiceつまり女性が妊娠・出産にかんして自らの選択をする権利を主張する活動家や団体はもちろんのこと、各方面から「政治的圧力に負けて女性の生命を危機にさらしている」と大きな抗議の声があがり、フェースブックを初めとするソーシャルメディアでも抗議運動が大きく展開。ニューヨークのブルームバーグ市長は、Susan G. Komenの助成金取り下げによって失われる資金の一部を補填するために25万ドルを提供すると発表しました。抗議運動の高まりを受けて本日金曜日、Susan G. Komen for the Cureは、「女性の生命を守るという我々の使命とコミットメントに影を落とすような決定をしたこと」について謝罪し、先の決定を取り下げて、Planned Parenthoodを含め乳がん検診を行う機関への助成金を以前通り継続する、との発表をしました。やれやれ。


宗教、政治、生殖倫理、フェミニズムなどさまざまな力のなかで中絶をめぐる議論が続き、殺人事件まで引き起こすこともあるアメリカの空気は、日本の多くの人々にはわかりにくいだろうと思いますが、今回の騒動もそうした葛藤の一部。政治的にどんな立場をとる人であれ、乳がん検診に反対する人はいないだろうと思われるものの、Planned Parenthoodが中絶を行っている(ちなみにPlanned Parenthoodが提供しているもののうち中絶が占めるのは約3パーセント)ということで乳がんのための財団が機関全体への資金を打ち切ろうとすることをみると、女性の身体が依然として政治の舞台となっていることが明らかです。選挙戦がこれから加速するなかで、経済政策だけでなくこうした議論がどのように展開されていくかもおおいに注視すべきところです。

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