2012年4月12日木曜日

村上春樹 文章とリズム

一昨日、ハワイ大学で村上春樹の講演があり、行ってきました。6年前に同じ会場で村上氏が講演したときの混雑ぶりを覚えていたので、今回は友達と早めの食事をして、開場時間(講演開始の1時間前)まもなく到着するようにしたのですが、我々が行ったときには600人ほど入る会場がすでに4分の3以上いっぱい。講演30分前には立ち見オンリーになっていました。講演が始まる頃には、壁沿いに大勢の人たちが立ったり座ったりしていて、たいへんな熱気。大学関係の人だけでなく、赤ちゃんや小学生の子供を連れてきている人やら、高校生からお年寄りまで、実にいろいろな種類の人たちが聴衆をなしていて、村上ファンの層の厚さに素直に感心。早く行っておいてよかった。


前回の講演のときは、たしか村上氏自身がすべて英語で話をしたような気がする(でもあまり記憶はさだかでない)のですが、今回は、初めに少し英語で話した後、短編を2本日本語で朗読し、文の合間合間に英語の翻訳を別の人が朗読する、という形式でした。朗読されたのは、1980年代の作品である「鏡」と「とんがり焼きの盛衰」。私は、村上氏の作品は小説よりも短編のほうが好きなのですが、この2本は読んだことがありませんでした。その内容もなかなか興味深かったけれど、なにより印象的だったのが、村上氏の朗読家としての魅力。ペースや間のとりかた、抑揚のつけかたなどが、ものすごく上手で、まるでプロの役者さんの朗読を聴いているようでした。たとえば、ふたつの文が「...。そして、...」でつながっているとすると、普通だったら「。」の後に間をおいて読むところが、そこでは敢えて間をとらず「そして」まで行って、その後で息をつく、といったテクニックで、文章の意味的な流れがリズミカルに伝えられるのです。『走ることについて語るときに僕の語ること』『小澤征爾さんと、音楽について話をする』で、村上氏は文章のリズムということについて触れていて、私はおおいに共感したのですが、今回彼の朗読を聴いて、非常に納得がいきました。一緒に行った友達は、今回読まれた2本の短編は前に読んだことがあったけれど、村上氏の朗読を聴くと、まるで全然違う作品のような印象を受けた、と言っていました。ちなみに、英語の朗読もたいへん上手で、翻訳者、そして朗読者が村上氏の文章のリズムをきちんと意識していることが感じられて、こちらも感心しました。


朗読の後で少しだけ質疑応答の時間があったのですが、私が招待した友達(ハワイ・シンフォニー・オーケストラのヴァイオリニストで、趣味で自分でも小説を書く、とても面白い人物。おおいなる村上ファンなので、この講演のことを教えてあげた)が、「作品を書いたり翻訳をしたりするときに、自分の文章を声に出して読むことがありますか」と訊いていましたが、これはとてもいい質問だと思いました。村上氏の答は、「はい、たいてい声に出してみます。ただし、それをするのは3稿めか4稿めになってからです」というものでしたが、これも非常に納得。


講演の後でサイン会があり、瞬時にして老若男女何百人もの人が列をなしていました。すごい。