2010年12月10日金曜日

奴隷制地図

一昨日は、我が家の洗濯機兼乾燥機(たいていアメリカの家庭では驚くほど大きな洗濯機と乾燥機が並べてありますが、私のマンションは場所が限られているため、キッチンをリフォームするときに洗濯・乾燥が一台でできる韓国製のこじんまりとしたものに買い替えました)が不調なため修理に来てもらったのですが、「午後一時から三時のあいだに来る」とのことだったのに、実際に修理工さんが現れたのは五時四十分というあたり、いかにもアメリカ的。こうした点ではまだ日本的な感覚の残っている私は、大いにイライラしてしまうのですが、現れた修理工さんがなかなか感じのいい人だったので、簡単に機嫌を直してしまう私。ハワイでは、こうした熟練ブルーカラーの職業についている人は、アジアからの移民であることが多いのですが、今回の修理工さんもベトナム人の男性でした。電話の応対は奥さんがやり、修理自体は彼がすべてひとりで請け負い、島じゅうどこにでも出かけていく。そもそも私は、機械の修理などといったことについては自分がまったくの無能なので、即座に問題をつきとめてきぱきと機械を分解して直す様子を見ているだけで、深く感服してパチパチと拍手してしまうのですが、移民の人たちがこうやって技術を身につけ、小ビジネスを起業し、腕ひとつでこつこつと社会の階段を昇っていくというのが、たいへんアメリカ的で、私は素直に感動します。

さて、まるで関係ないですが、ニューヨーク・タイムズに載っている、Visualizing Slavery、つまり「奴隷制を視覚化する」という記事がなかなか面白く、私は貴重な午前中の時間をかなりこのサイトで遊ぶことに使ってしまいました。米連邦政府が国勢調査で南部の奴隷の数を最後に記録したのが1860年。その数カ月後に、海岸線の調査をする政府機関が、国勢調査のデータをもとに、奴隷の分布を視覚的に示した地図を制作したのですが、ひとくちに南部といっても奴隷の分布はなかなか複雑で、奴隷制と南北戦争の展開とが密接に結びついている(当たり前のようでいて、実際はなかなか複雑)ということがよくわかる。この地図で示されていることが、連邦側の戦略にどのように使われたかということもよくわかるし、この地図自体が奴隷制解放に至る過程で果たした役割も説明されていて、なかなか面白い(この記事に使われている、リンカーンその他を描いた絵の上でカーソルを移動すると絵の細部が見られます。これだけでも私なぞは子供のように喜んでしまう)。なんといっても、こうした視覚資料をニューヨーク・タイムズがネット上でこうした形で使うというのが面白い。

私は最近、さまざまな視覚資料を研究や教育活動のために無料で提供しているARTstorというデータベースがたいへん気に入って(ARTstorのメンバーになっている大学や美術館などに所属している人でないとブラウズできないようです、あしからず)、これまた何時間もこれで遊んで時間を使ってしまうのですが、資料のデジタル化というのは本当にすごいものです。大学院生の頃、図書館でNew York Times Indexという、ニューヨーク・タイムズの過去の記事を各年ごとにすべて項目化した分厚い本を、一冊一冊辛抱強く調べていった頃のことを考えると、リサーチというものの性質がまったく変化したのを実感します。せっかちな性格の私がよくもまああんな地道な作業をやっていたものです。