2011年2月21日月曜日

アマチュア・クライバーン・コンクール応募締切間近

『ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール』で、クライバーン財団が力を入れている活動のひとつにアマチュア・クライバーン・コンクール(正式名称はInternational Piano Competition for Outstanding Amateurs)があることを紹介しましたが、次の第6回アマチュア・コンクールは今年5月末に開催されます。応募締切は今日から一週間後の3月1日。

私は、せっかく本を書くまでクライバーン・コンクールにかかわったのだから、できればやはりこちらにも参加してみようと、応募を決め、昨日オーディションのための録音を作って今日投函してきました。なにしろ、アマチュアとはいえ、やたらとレベルが高く、また、前回のコンクールの様子を追ったドキュメンタリー映画They Came to Play(この映画は本当によくできていて感動的なので、インポート版しか存在しないようですが、興味のあるかたはぜひどうぞ。リージョンコードが違ってもパソコンでなら観られるはず)のおかげでこのコンクールの知名度がますます上がり、さらにたくさんの人たちが世界中から応募してくると思われるので、私なぞはオーディションに通らない可能性もじゅうぶんあるのですが、まあやってみないことには始まらない、と思い、ここしばらくは結構マジメに練習に取り組んでいます。毎日2時間は練習時間をとるようにし(本当はもっとやりたいけれど、本業の研究もあるし、今住んでいるマンションは夜8時以降はピアノを弾けないし、といろいろ制約があるのですが、アマチュア・コンクールなのだから、皆そういう制約のなかでいかに限られた時間と労力を有効に使うかが勝負なのだと思います)、毎週レッスンに通って、曲が頭から離れず夢にも出てきてしまう。

録音は、文京シビックホールの練習室を借りて録った(研究のほうで、こうした公共のホールの運営について考えているところなので、自ら利用者の立場にたつのも面白い。この録音の直後に、文化庁で「劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会」の傍聴に行ったのも面白かったです)のですが、ひとりでこもってやるだけでもなかなか緊張。私の先生は、こういう録音をするときには、たいてい2テイクめか3テイクめくらいが一番よくて、それ以上やり続けても集中力や体力が落ちてくるので、どんどんよくなるということはあまりない、と言っていましたが、私はなにしろ経験のない素人なので、集中力がじゅうぶんアップするまでにも、楽器に慣れるまでにも、けっこう時間がかかってしまうし、各テイクでの間違いを次のテイクで直すように心がけていると、録るごとによくなっていく(ような気がする)。でも、さすがに同じ曲を4回も5回も通してやっていると飽きてくるので、もう一曲(オーディションには、異なるタイプの曲を2曲以上、計15分以上の録音を送ります)のほうをしばらくやって、またもとの曲に戻る、などということをやっていると、あっという間に部屋を借りていた3時間は終わってしまいました。ちなみに私が今回録音したのは、サミュエル・バーバーのSouvenirs組曲(これはもともとピアノ連弾のために作曲されたものですが、バーバー自身がソロ用にも編曲しています)のなかのHesitation-Tangoと、ブゾーニ編曲バッハのシャコンヌ。どちらも、何年も前から弾いている曲ですが、それぞれ別の意味で私にはたいへん難しい曲で、とくにブゾーニのほうは、とにかく15分近くもある大曲なので、頑張ってもどうしても各テイクに違う間違いが入ってしまう。私の技術力では録音の編集はできないので、仕方ないから比較的インパクトの小さい間違いはどれか、音がちょっとくらい外れていても音楽的に形になっているのはどれか、という基準で選んだ結果、結局2曲とも最後のテイクを使うことにしました。完璧とはとても言えないけれど、自分なりに頑張って臨んだので、その過程で学んだことはとても多かったし、練習について意識的に考えるようになったことは大きな収穫でした(と過去形で言ってしまうと、もう落ちたみたいか)。

何事においてもそうでしょうが、漫然と曲を弾いているだけでは、自分の悪いクセがどんどん固まってしまうだけでちっとも上手くならない。弾けない箇所はなぜ弾けないのかをきちんと見極め、それを解決する方法を見つけ、そのための練習をする。そうしたガイダンスを的確にしてくれる先生につく。自分の音にきちんと耳を傾ける。そのためには、弾きながら自分の音をちゃんと聴く能力を身につけると同時に、自分の演奏を録音して聴き返す習慣をつけるのも大事。などなど。私は、ピアノの演奏に自分の性格や行動パターンの欠点が非常によく表れる(こらえ性がない、ひとつのことをきちんと終える前に次のことに進みたくなる、好きなことはやたらとデカく速くやりたくなる、前に出るより後ろに引くほうが効果的ということもあるということがじゅうぶんわかっていない、などなど)ので、自分の録音を聴くのはとても勉強になります。前からちょっと考えていることだけれど、レイモンド・カーヴァー村上春樹にあやかって、いつか「ピアノについて語るときに私の語ること」という本かエッセイでも書こうかしらん。

さて、このアマチュア・クライバーン・コンクールには、過去の参加者リストをみると、驚くほど日本人が少ない。日本にはこんなにたくさんのクラシックオタクがいて、おそるべきレベルでピアノを弾くアマチュアが大勢いるんだから、こういうものにもっと参加しそうなものなのに、なぜでしょうか。働き盛りの日本人はコンクールに出るために一週間(コンクール本番は、予選から本選までいれてまる一週間)も休みを取りにくいからでしょうか。それとも、テキサスまで出かけて行って英語で行われるコンクールに出場することの心理的ハードルが高いからでしょうか。でも、クラシック愛好家のなかには、休みをとって世界各地にオーケストラを聴きに行ったりする人も結構いるのだから、こういうものに出る人がもっといてもよさそうなものです。というわけで、もしも興味のあるかたがいたら、こちらをどうぞ。普段から練習を積んでいて、レパートリーの揃っている人なら(オーディション録音は「15分以上」で、そんなにたくさん送っても全部丁寧に聴いてもらえるとはとても思えないので、20分も入れればじゅうぶんでしょうが、応募の時点で本番で演奏する演目を明記しなければならず、それには予選から本選まで入れて全部で一時間ぶんほどのレパートリーが必要)今からでも大丈夫ですよ。「本物」クライバーン・コンクールの経験からして、アマチュア・コンクールも、いろいろな感動や出会いがある場なのだろうと思います。