定番の深夜バラエティー番組『サタデー・ナイト・ライヴ』で、ハワイのカウアイ島の架空のホテルを舞台にしたスキットが演じられ、ハワイで議論をかもしています。ホテルのバーで観光客のためにフラを演じるドウェイン・ロック・ジョンソンを中心にしたこのスキットは、一般のアメリカ人がもっている常夏のパラダイスというハワイのイメージに隠されるハワイの現実に言及しながら、そうしたことに思いをはせることのない白人観光客の無知と無神経を皮肉ったものです。また同時に、観光業によって経済が成り立っている土地の哀しさや、そこで観光業に従事しながら生活している住民の「内実の思い」を、コメディの形にして、社会風刺・批判をしているものです。
しかし、このスキットには非難の声もたくさんあがっています。ハワイの住民を、教育程度や知性の低い下品な人間として描いている。また、実際には接客を初めとするサービスに関してはきわめて高レベルのハワイの観光業をおとしめるような描きかたをしている。などなど。デューク・アイオナ副知事やハワイ観光局などは、不況によってハワイの観光業が危機に瀕しているときに、ハワイの観光業をこのように侮蔑的に描写することは無神経・無責任である、との旨の抗議を表しています。この件についての地元新聞記事には、現在の時点で500近くもの読者からのコメントがオンラインで寄せられていることから、関心の高さがわかります。これを「コメディというジャンルを巧みに使って、観光というものが隠蔽する社会・経済状況を明らかにして風刺したもの」と見る人と、「ハワイの住民に対して侮蔑的なもの」と見る人のあいだでの議論にくわえて、ハワイという特有の歴史と人種・民族構成をもつ場所における「白人」の位置や、「ローカル」の人たちの白人の扱いについての議論なども混ざって、そのやりとりを見るのもとても興味深いです。ちなみに私は、「コメディというジャンルを巧みに使って、観光というものが隠蔽する社会・経済状況を明らかにして風刺したもの」派ですが、うーむ、なかなか難しいところです。『ドット・コム・ラヴァーズ』でも書いたように、ハワイにおける観光業の位置や、「ローカル」と白人、また観光客の関係はとても難しいものなので、風刺・批判を意図したコメディが、その意図とは違うように受け取られて議論を巻き起こすのも理解はできます。先住ハワイ人コミュニティのなかでももっとも声高に活動を続けてきた活動家・詩人・学者、Haunani-Kay Traskによる『From a Native Daughter』という重要な本に、先住ハワイ人の立場からみた、ハワイの観光業とそれがもたらす「文化的買春」についての痛烈な批判のエッセイがあります。ぜひ読んでみてください。