2009年11月22日日曜日

ETV特集 「ピアニストの贈り物〜辻井伸行・コンクール20日間の記録〜

NHK教育テレビのETV特集で、「ピアニストの贈り物〜辻井伸行・コンクール20日間の記録」を今見たところです。クライバーン・コンクールの現場には、NHKの取材は来ていなかったので、おそらくクライバーン財団と正式の契約を結んでいるドキュメンタリー監督のピーター・ローゼン氏の動画を買い取って作ったものなのだろうけれど、日本の聴衆にむけた番組としてそれを編集するとどういう作品になるのだろうと興味津々(ついでに、コンクールの演奏中ずっと前から3列目に座っていて、しかも辻井さんや他の演奏家にもちょろちょろとついてまわっていた自分がちらっと写っていたりするかしらん、という興味もありました。確かに一カ所、ばっちり写っていました:))で見ました。

が、正直言って、私にはさっぱり面白くない番組でした。なにが面白くないって、なんのメッセージも伝わってこないからです。このコンクールについて制作者が聴衆に伝えたいことはなんなのかがさっぱりわからない。クライバーン・コンクールというものの熾烈さなのか、参加者たちの音楽にかける情熱なのか、彼らの人生や人間性なのか、コンクールで披露される演奏の多様さ(あるいは多様さのなさ)なのか、辻井さんの音楽性なのか、辻井さんというピアニストをここまで育てあげた人々についてなのか。どんな視点からでもとても面白い番組が作れるはずなのですが、なんとも焦点が定まらず、なにが言いたいのかよくわからない番組でした。まあそれは、NHKの制作者が実際に現場で取材をせず、すべてが終わった後で他の人がその人の視点からとったテープを編集して作った番組なら、焦点が定まらなくても仕方ないのかもしれませんが、それならそれで、いっそのことそのピーター・ローゼン氏と彼の視点をもっと前面に押し出した番組作りにしたほうが面白いんじゃないかと思いました。(番組紹介のHPには、ローゼン氏のことが書いてあります。)また、とくに物語性をもたせず、演奏を見せ聴かせることをメインにした番組にするなら、それはそれで立派なことだと思いますが、それだったら、あんな風に演奏をこちゃこちゃと切り貼りしないで、せめてそれぞれの曲の一楽章くらいはまるごと聴かせるべきでしょう。

このブログを以前から読んでくださっているかたたちには、私のクライバーン・コンクール記録を追っていただきましたが、私はこれからこのコンクールについての本を書くことになっています。というわけで、私が伝えたいと思っていることをこの番組にすべて言われてしまったら困るなあとちょっと心配もあったのですが、それはまるでなかったので、そういう意味では安心しましたが(笑)、一視聴者としては、不満感が残る番組でした。NHKにはもっと気合いの入った番組作りを期待します。