2010年3月21日日曜日

米下院、健康保険法案を可決

去年のクリスマスに、米上院が健康保険法案を可決したことを報告しましたが、本日、下院が219対212の僅差で法案を可決しました。いくつかの個別の項目について上院との交渉が残っているものの、法案の骨子はそのままでオバマ大統領の手にわたることが決定しました。ここに至るまでには、非常に長く苦しい道のりがあり、より網羅的で低額の皆保険制度を要求する立場からはいくつかの大きな譲歩もせざるを得ませんでしたが、オバマ氏が選挙運動において綱領の中核に掲げていた健康保険制度の抜本的改革が、とにもかくにも実現したことは、オバマ政権始まって以来最大の功績であるばかりでなく、1960年代の公民権法とならんで、アメリカ史に残るたいへん重要なことです。さまざまな問題を抱えながらもとにかく国民健康保険制度が存在する日本では、アメリカの保険制度がいかに異常かということがなかなかわかりにくいのですが、低所得者層に限らず、ミドルクラスや専門職につく人でも、民間の健康保険に入るために莫大な費用を払い、それでも既往症があると加入を拒否されたり、病気になった途端に加入を取り消されるといった、無茶苦茶な現状は、この立法で大幅に改善されることになります。現在保険に未加入な3200万人の人びとが保険に加入できるようになり、雇用者を通じて保険に入れない人にも比較的低額で保険が選べるシステムが整備されます。これでアメリカもようやっと、医療において一応先進国と言えるようになるでしょう。

ただし、今回の立法に至るまでの道筋や投票結果は、現在のアメリカ政治の限界も明るみに出しています。上下両院とも、投票結果は見事なまでに党ラインではっきりと分かれ、オバマ大統領が提唱していた、党を超えた冷静な議論と決定は、ついになされないまま、ぎりぎりセーフの可決となりました。このブログでも言及しているTea Partyの動きに垣間みられるような反政府の流れ、とくに連邦政府が運営する健康保険制度を「社会主義」と呼んで猛反対する層というのが、アメリカにはかなりの厚みで存在します。そうした層が、今年11月の選挙でどのように動員されるかによって、オバマ政権そして民主党のこれからが大きく左右されるでしょう。また、非合法移民の保険や、中絶問題(今回の法案では、中絶をカバーする保険に国民が加入することはできるが、連邦資金を中絶に充てない、という妥協案が入れられました)が今後どうなっていくか、アメリカの健康保険制度にはまだまだ大きな課題が残されています。

ところで、健康にちなんで、ニューヨーク・タイムズに載った「心の健康」に関する面白い記事。最近のある研究によると、「深く実のある会話を日常的にたくさんしている人のほうが、表面的な世間話しかしていない人よりも、幸せである」との結果が出たそうです。そんなことわざわざ「研究」しなくても、常識的に考えればそりゃそうだろうと思う、ともまあ言えるのですが、行動科学や社会科学ではそうした「常識的に考えれば当たり前」のことに実際にデータの裏付けをする、ということが結構あります。私には、この研究の調査方法がなかなか面白かった。被験者の服に録音マイクをつけてもらい、4日間にわたって12.5分ごとに30秒ずつ、そのときにしている会話を録音してもらい、その会話の内容を「実のある会話」と「表面的な会話」(事務的な会話など、「どちらにも入らない会話」というカテゴリーもある)に分けて、それぞれの人が日常的にしている会話の種類を分類する。その結果と、それぞれの人の「幸せ度」(本人の自己申告および友達や家族などの評価による)を照らし合わせて、会話の内容と幸せ度の相関関係を調べる、というのです。その結果、政治、宗教、教育、人生の意味などといったことについて「深く実のある」会話をたくさんしている人のほうが、天気やテレビ番組の話題(会話によっては、トピックがテレビ番組でも内容が「深く実のある」に分類されるものももちろんある)ばかりしている人よりも、明らかに幸せだ、というのです。幸せ度というのは、考えや感情を分かち合ってコミュニケーションをとることによって、人と意味のある関係を築いているかどうかで大きく違ってくるので、この結果はまあ驚くようなものではないでしょう。ただ、不幸せそうな人に「そんなにややこしいことを考えたり思い詰めたりしないで、もっと気楽にやろうよ」と言うのは間違っている、ということも示唆しています。気楽で実のない世間話ばかりしているよりも、ややこしいけれども本質的な会話をして人と意見を交わしているほうが、幸せにつながるかもしれないからです。まあ、この研究は被験者の母集団も小さいですし、相関関係は明らかになってもそれが因果関係であるかどうかはわからないので、あまり断定的な結果を導くのは危険でしょうが、なかなか面白いリサーチではあると思います。

1 件のコメント:

Schopenhauer2 さんのコメント...

はじめまして。会社をやめて6年目の66歳の定年組です。

今回のアメリカの健康保険案についてはアメリカ人の国民意識が表れていて興味深いものでした。

Rush Limbaugh を楽しんで聞いてますが、彼ら反対派の意見はこういうものでした。

アメリカの医学医療水準は世界一で、これを維持できてるのは高い医療費と、寄付に負うところが多い。公的医療制度になると、高い医療を受けたい選択や自由に制約が加えられるだろうし、結果、医療の水準はさがり(平準化)してしまい、医療費は国家財政を圧迫するようになり日本のように慢性赤字になるだろうと言ってます。

彼ら保守派は公的関与を極端にきらい、自分の運命は自分で決める、国家の関与は真っ平だとさえ言ってます。人間は自分の足で立つものであり、アメリカにとって自由はなにののにもかえがたいということだと思います。

これはアメリカで銃規制がなかなか進まないのとおなじでアメリカは勇気と野心のある自立心の高い人間は歓迎するが、社会保障の世話になる弱者は歓迎しないということなのだと思います。

今日の惰弱な日本のことを考えるとこうした考えも参考にならないわけではありません。