2010年3月28日日曜日

Joyce Carol Oates, "The Falls"

この週末は寒かったのでどこにも行かず、家でジョイス・キャロル・オーツの小説、The Fallsを読んで過ごしました。オーツは歴史や政治や性や家族といった大きなテーマに正面から取り組み、かつ高度に物語性がありぐいぐい引き込む筆致で、もともと好きな作家なのですが、なにしろものすごい勢いで次々と作品を生み出すので(小説、短編集、ノンフィクションなど合わせるとこれまでに刊行した本の数はなんと50以上、それもそれぞれがとても重厚)、こちらが読むよりも彼女が書くスピードのほうが速いと思うくらいです。で、このThe Fallsも500ページ近くにもなる大著なのですが、ナイアガラの滝を舞台に、アメリカ20世紀後半の社会経済史や環境史を背景に、実にさまざまなタイプの人間の苦悩や葛藤、そして愛情のありかたを描き(ちょっとミステリー風な部分もあるので、読みたい人のために、これ以上ネタを明かすのはやめておきましょう)、それこそ寝食忘れて読ませる文章です。(テーマや作風としてはフィリップ・ロスに通じるものがあります。)1週間以上はかかるかしらんと思っていたのですが、3日間で読み終えてしまいました。読んでいるとあまりにもその世界に入り込んでしまうので、読み終わった頃には大きな満足感と同時に心身ともに疲労感があって、今日は他のことはもうなにもしたくない、という気分になりますが、まとまった数日間をそうした世界に入り込んで過ごすにはとてもいい作品です。主人公のAriah Littrellという女性は、決して皆に愛されるような人物ではないのですが、オソロしいほど肚がすわって毅然と現実に立ち向かい、ゆがみやねじれもありながらも愛情をもって誇り高い人生を生きる姿が感動的です。オーツの作品で日本語訳が出ているものもありますが、これは出ていないようなので、よかったら原作でどうぞ。