私たちは、5月23日から29日まで、アメリカのテキサス州フォート・ワース市で開催された、第6回アマチュア・クライバーン・コンクール(正式名称はThe Sixth International Piano Competition for Outstanding Amateurs、略称IPCOA)に参加しました。
録音によるオーディションを通過して世界からフォート・ワースに集まった出場者は70人。 出場者の「本業」は、医師や弁護士、建築家、レーシングカーデザイナー、投資家、主婦、大学教授、プログラマーなど多種多様。また、音大のピアノ科で大学院まで卒業している人や、各地でコンクール出場やオーケストラとの共演を重ねCDまで出しているような人から、独学でピアノを学びふだんは人前で演奏する機会がまるでない人まで、ピアノとのかかわりかたも実にさまざま。 こうした人々が一週間のあいだ、ふだんはアマチュアにはまるで縁のないような大きなホールで、ハンブルグ・スタインウェイDという素晴らしい楽器で、立派な審査員たちの前で、何ヶ月も何年も懸命に練習を重ねてきた音楽を演奏するのです。
今日のピアノ・マラソンで演奏する5人は、誰も準本選に残らなかったので、コンクール本番の舞台に立ったのは予選のほんの12分間のことでしたが、その12分のあいだに私たちは、実に多くのことを経験し、学び、感じ取りました。また、他の出場者たちの演奏を共に聴くことで、さまざまな感動や興奮や発見を共有しました。出場者たちはみな、指がよく動くということを超えて、それぞれの生きざまや人柄を感じさせる、実に人間的な演奏を披露し、プロの演奏とはまた違った感動を与えてくれました。そしてまた、本番を前にする恐怖や緊張、音を通じて自分をさらけだす覚悟、実力を出し切れなかった落胆や思いがけない発見をした興奮、身体を揺さぶられるような演奏を聴いたときの衝撃、などを同じ空間で共有し、演奏の合間にバーや居酒屋(フォートワースにも居酒屋がありました)やレストランでわいわいと戯れながら、誰にはばかることなくオタッキーなピアノ談義に花咲かせた仲間たちとのあいだに生まれた友情と絆は、なにものにも代えられない人生の宝物となりました。