先週から、モスクワとサンクトペテルブルグで、チャイコフスキー・コンクールが開催されています。『ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール』の最後で言及したように、2009年までクライバーン財団長を務めていたリチャード・ロジンスキ氏を最高諮問および運営委員長として迎えた今回のチャイコフスキー・コンクール。ソ連崩壊後の予算削減や審査の不透明さなどで評判を落としていたチャイコフスキー・コンクールが名誉挽回をはかってのぞんでいるのですが、今回も一週間のあいだにいろいろなスキャンダルがあります。たとえば、ピアノ部門の予選で落ちたピアニストのひとりが、準本選の演奏者のひとりが演奏を終えるや否やステージに上がってショパンを弾き始めたとか、チェロ部門の本選のコンチェルトを指揮してきた人物が、リハーサル中にアルメニア人のチェリストについて民族差別的な発言をし、コンクール本部が「このような言動は許されるものではない」と公式発表をして降板に至ったとか。そしてまた、このコンクールでも演奏のすべてがネットで生中継されているので、夜中まで起きて演奏を観ながら、世界のいろんなところに散らばっているアマチュア・クライバーンの仲間たちとフェースブック上でコメントをしあったりなんかして、「あーあ、とうとう私もピアノオタクの仲間入りをしてしまったか...」と苦笑。しかし、こんなふうに、テキサスやモスクワで開催されているコンクールを、自宅にいながらにして無料で生で見られてしまうのだから、すごいものです。
私はピアノ部門しかフォローしていませんが、本選に残っている5人のうちのひとりは、2009年のクライバーン・コンクールで2位になった韓国のヨルム・ソン。彼女のモーツアルトのピアノ協奏曲第21番の演奏は、何度でも観たいというほど素晴らしく(ラフマニノフの第3番は、普通演奏されるのと比べると、妙なほどアーティキュレーションがきいていて、かなり変わった演奏でした)、それまでのソロの演奏とも合わせると、彼女が優勝候補のひとりであることは間違いなし。今からあと10分ほどで、彼女のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を含む最後の演奏が行われ、受賞者の発表となります。会場の雰囲気からなにから、クライバーン・コンクールとはずいぶん違って、そんな意味でも面白いので、興味のあるかたはごらんください。