2013年6月7日金曜日

本選第2日目、Kholodenkoのプロコフィエフに大拍手

今晩は、本選第2日目のコンチェルトの演奏がありました。今日演奏したのは、阪田知樹くん、Sean Chen、そしてVadym Kholodenkoの3人。それぞれ、モーツァルトの第20番、ベートーヴェンの第5番、そしてプロコフィエフの第3番を演奏しました。これで、本選出演者の6人全員が一通りの演奏を終え、明日と明後日でもう一本のコンチェルトの演奏をして終了となります。

今日演奏は、全体として昨晩の演奏よりもずっとレベルが高かった、というのが、演奏を聴いた人たちのあいだでの合意。私もその通りだと思います。

Alessandro Deljavanに入れこんだのと同様、阪田知樹くんにsentimental attachmentを感じるようになっている私は、今日最初の阪田くんのモーツァルトを、文字通り手に汗握りながら聴きました。(自分がかつて勉強した曲だと、聴いているだけでもさらに緊張してしまうのです。)でも、私なぞに心配される必要などまるでない、最初から最後までとてもクリーンで透明度のある、とてもいい演奏でした。予選の演奏から感じていましたが、彼の演奏はとにかく邪念がなく、気負いもなく、まっすぐで清らかで、聴いていて実にすがすがしい気持ちになります。カデンツアも堂々としてかつ気品のある演奏で、オーケストラとの相性もよく、全体的にとてもレベルが高い音楽でした。何度も言いますが、19歳で初めてこんな大舞台に出て、こんな立派な演奏ができるなんて、それだけで本当に素晴らしく、日本の若者に希望を感じてしまいます(と、いかにもオバサン的発言)。

次のSean Chenの「皇帝」もとてもよかったです。曲のタイプがまるで違うので、阪田くんの演奏とは比べにくいのですが、音に輝きがあって、この作品の特徴である堂々とした様子が、フレージングからも音量からもよく表現されていました。ちょっとしたエントリーのミスや、音階の終わりがオーケストラと合わずに最後に音を足して帳尻を合わせた箇所などはありましたが、全体としてはダイナミックでよい演奏。よくも悪くも(悪いということはとくにないかもしれませんが)、これは自分が上手いということをわかっている人の演奏だなあ、という印象。

以上2人の演奏、どちらも昨日のMndoyantsとDongの演奏と比べるとずっとよかったと思いますが、今晩の最大のスターはなんといってもVadym Kholodenko。彼は予選で弾いた「ペトルシュカ」がとてもよかったので、それと同系列(?)のプロコフィエフ第3番には聴衆の期待が集まっていたのですが、これはもう、始まって2分くらいで、「この人が優勝するに違いない」と確信するほど、他の5人とは次元の違う演奏でした。第2番と同様、この曲は私はとくに好きではないのですが、彼の演奏を聴いていると、すっかり引き込まれてしまう。この人はこの曲を弾くために生まれてきたのではないかと思われるほど、音楽との一体感がある。とにかく、リズム感が飛び抜けていて、聴いているだけですっかり乗れるし、大音量の和音の続く曲でありながら、単なる迫力だけでなく、音の彩りがきわめて豊かで、フレージングにも高度な芸術性が感じられる。この曲は単に超技巧的な曲ではなく、ピアノという楽器、そしてピアノ協奏曲という形式を讃美した芸術作品なのだということ、あらためて認識させてくれる演奏。テンポが速くリズムが変化するのでオーケストラとずれてしまう可能性がある箇所もたくさんあるのですが、本選6人のなかで、オーケストラとの呼吸も彼が一番合っていて、他の演奏と比べてオーケストラ自体が上手に聴こえる。ソリストのリードにオーケストラが乗るというのはこういうことなんだなあと、納得する思い。本当にゾクゾク、ワクワク、ビックリする演奏でした。曲が終わると同時に会場全体が立って「ブラボー!」の大拍手がやまなかったことからも、聴衆をとりこにする演奏だったことがわかります。コンサートの後、お腹が空いたので近くのお寿司屋さんで食べてから(フォート・ワースにもお寿司屋さんがあるのです)帰ってきたのですが、夜も更けた今になってから「ジムに行って運動しようか」と思ってしまうくらい、元気を与えてくれる演奏でした(でも、ビールも飲んだので、実際にジムに行くのは明日になってからにします)。

3週間近くコンクールに通って、たくさんの演奏を聴いているなかでも、とくに印象に残る、後々まで耳と心と頭のなかに残る演奏というものがありますが、今日のKholodenkoの演奏はまさにそのひとつです。他に、私がとくに素晴らしいと思ったのは、Fei-Fei Dongの予選1回目のリサイタル、Alessandro Dejavanの予選1回目のリサイタル、阪田知樹くんの予選第2回目のリサイタル、Beatrice Ranaの準本選のリサイタル、Alessandro DeljavanとVadym Kholodenkoの準本選の室内楽です。どれもオンデマンドでインターネットで見られますので、今日のKholodenkoとともに是非とも見てみてください。