予選と準本選の中日である昨日は、聴衆にとっては休みの日でした。さすがに一週間朝から晩までリサイタルを聴きっぱなしは疲れたので、寝坊してから、髪を切ったり(知らないところで、しかもアメリカで、髪を切るのはたいへん心配なのですが、ハワイに戻るまで待っていられない状態だったので、滞在先の近くの美容院に行ってみましたが、結果は意外に満足いくものでした)ペディキュアをしてもらったりして、ゆっくりと午後を過ごしました。前から感じていたのですが、テキサスの女性、とくにクライバーン・コンクールに足を運ぶような女性はそうですが、それ以外に街で見かける多くの女性も、たいへんきれいな外見をしています。「きれいな外見」というのは、洋服やアクセサリーにかなりお金がかかっていて、髪もばっちり決まっているし、お化粧をたっぷりしている。長年アメリカで暮らしていると、日本に行くたびに都会の女性がきちんとした身なりをしているので自分がずいぶんみすぼらしく思えるのですが、それと同じような感覚をテキサスでも感じます。もし自分がハワイからテキサスに引っ越すことがあったら、住居費を相当節約できるぶん、身なりを整えるのにお金がかかりそうな気がします。
夕方からは、Historic Stockyards、つまり家畜収容所として歴史的に機能してきたエリアに出かけ、ステーキを食べてきました。フォート・ワースに来たのは今回が5回目でありながら、Stockyardsに行ったのは今回が初めてでした。フォート・ワースが、もともと放牧業の中継地点として発展してきた街であることは拙著で説明しましたが、クライバーン・コンクールが開催されているダウンタウンのバス・ホールや美術館の並ぶエリアにいると、その事実は少ししか実感しません。が、Stockyardsに行ってみると、そのエリアに車で入った途端、思わず「お〜!」と声を出してしまうくらい、まさにカウボーイの街で、まるで西部劇の世界。百年くらい前の雰囲気がそのまま残っている。今でも年間通して毎週ロデオが開催されているらしく(ぜひとも行ってみたい)、「そうだ、ここはテキサスだったんだ」ということを思い出させてくれます。拙著でフォート・ワースが自称The City of Cowboys and Culture、つまり「カウボーイと文化の街」であることも書きましたが、こうしたカウボーイの街で、クライバーン・コンクールのようなイベントが世界的なものに成長してきたことの面白さが、Stockyardsに行くとさらにわかります。ちなみに、ステーキ屋さんでは、ステーキの他に、物珍しさで、Rabbit-Rattlesnake Sausage、つまりウサギとガラガラヘビのソーセージなるものを食べてみましたが、普通のソーセージとそう変わらない味でした。
テキサスにはもう何度も来ているのでそう驚かなくなりましたが、最初に来たときに新鮮だったのが、地元の男性はごく日常的にカウボーイ・ハットを被る、という事実。別に、ウェスタンをテーマにした特別なイベントに行くときでなくても、街やレストランで、きちんとした男性が、普通にカウボーイ・ハットを被り、カウボーイ・ブーツを履いている。ビジネスマンが、スーツにカウボーイ・ハット、という姿でいることもあるし、たいへんオシャレなレストランに、ウェスタンの服装とカウボーイ・ハットの男性が何人もいる。そうか、この土地ではこれが普通の格好なんだ、ハワイでは地元の人が日常的にアロハシャツを着る(アロハシャツにもいろいろありますが、ハワイではアロハシャツは正装なので、仕事にはもちろん、結婚式やお葬式にもアロハシャツを着ていくのはごく普通)のと同じようなものなんだろう、と納得。それにしても、テキサスでは、そのへんのいわゆる「場末」の雰囲気のハンバーガー屋さんなどに、きちんとしたスーツ姿のビジネスマンが昼間やってきて、ハンバーガーとビールというランチをとっていたりするのが、私にはなんとも面白いです。
さて、拙著で、クライバーン財団が、音楽ファンだけでなく街全体の誇りとしてクライバーン・コンクールを育んできたことを強調しましたが、今回も、このコンクールの存在は街のいろんなところで感じられます。ダウンタウンにはクライバーン・コンクールの垂れ幕が各所で見られるし、街のバス停のベンチもコンクールの広告になっている。バス・ホール近くのレストランに行くと、ウェイターが「今のところ誰が有望だと思いますか?」などと話しかけてくる、といった次第。
今日から準本選。午前中から始まった予選と違って、演奏は午後1時半からで、午後の部と夜の部のあいだにも3時間近い休憩があるし、ソロと室内楽の演奏が交互にあるので、聴衆にとってはだいぶ楽になります。夜には阪田知樹くんのソロのリサイタルもありますので、ぜひウェブ中継をごらんください。