2009年12月4日金曜日

天野郁夫『大学の誕生』

先週末、大学一・二年生時代のクラスの同窓会をしました。私は幹事のひとりだったので、人探しだの名簿作りだのといった準備をしているあいだに、運動会前の子供のように、始まる前からワクワクドキドキ勝手に興奮していたのですが、実際の集まりは大成功で、参加者みんなが心から楽しんでいたようなので、本当にやったかいがあったと思えました。このクラスは、大学の初めの二年間に語学や体育実技の授業を一緒に受ける50人ほどのクラスなのですが、なにしろバブルで遊んでばかりいて授業にほとんど出なかった人もけっこういるし、軟派対硬派(まあ、1980年代の東大の「軟派」と言ったって、全然軟派じゃないのですが、まあこれは内部での相対的な比較です)だの、東京出身者対地方出身者だの、政治活動家対ノンポリ(「ノンポリ」であるということがひとつのアイデンティティの印として機能していたということが今考えるとスゴいような気もする)だのといった、さまざまな分類によって、交際範囲はかなり限定されていて、二年間をともにしたクラスメートのなかにも、当時はほとんど口をきいたことがなかった人というのが結構たくさんいるのです。だから、20年を経た今になってその当時の人たちと集まっても、果たして楽しいのかどうか、そもそも会ってもお互い覚えていない人が多いんじゃないか、などといった不安を抱えながら、おそるおそるやってきた人も少なくなかったようです。が、実際集まってみると、そんな心配はまるで無用で、それこそ不思議なくらいのポジティヴな空気が場内いっぱいに漂う一夜となりました。単に、久しぶりに会う友達とわいわい騒いで楽しかった、というだけではなくて、クラスで一緒だったときの年齢の二倍の年齢になった今、それぞれの人が、あの時代の自分を思い出したり、それから20年のあいだに自分が生きてきた人生を振り返ったり、人とのつながりということについて改めて考えたりするきっかけになったのだと思います。そして、昔はろくにしゃべったこともなかった相手、正直言って「うざったい奴だな〜」とか「訳のわかんない人だな〜」とか思っていた相手とも、こうしてお互い大人になって会ってみると、なかなか魅力的で面白い人間であるということがわかって、昔の知り合いと新しい友達になったような、不思議な幸せ感を味わう、というのもあったと思います。また、このトシになるとやはり、いろいろな山あり谷ありの経験をしてきている人も多く、そうしたものを乗り越えて、大きくも強くも優しくもなって前に進んでいる姿を見ると、とても勇気づけられます。というわけで、いろいろな意味で感動の多い集まりとなり、幹事は勝手に大満足しております。

さて、大学といえば、少し前に、「東大本はもうやめよう!」という投稿をしましたが、私は最近、天野郁夫『大学の誕生〈上〉ー帝国大学の時代 』を読みました。これはとても読み応えがあり、勉強になり、面白い本です。どうせ東大に関係する本を読むのなら、絶対これを読むべきです。本全体が東大の話ではもちろんないのですが、現在の東大が組織の形としても教育や研究の内容としてもなぜ今のようなものになったのか、日本の社会で東大が占めているような位置を占めるようになったのはどういういきさつによるものなのか、他の国立大学や私立大学と帝国大学の関係はどのようにしてできたのか、という歴史が、とてもよくわかります。私は知らなかったことをたくさん学び、「おー、なるほど、こういうわけだったのか!」と線を引いたり付箋をつけたりしながら読みました。明治期に官僚を初めとする国家のリーダー養成の目的で帝国大学が作られたということくらいはわかっていましたが、特有な近代化の過程をたどった明治の日本が急いで大学制度を整える上で、中世ヨーロッパの大学の伝統、フランス型の「専門学校」、ドイツ型の「国家の大学」、アメリカ型の私立大学など、いろいろなモデルがあり、結果的には多様なそれらのモデルが合わさったような形の大学制度ができあった、ということ。また、医師や法律家のための国家試験の仕組みが、大学の整備と絡み合って制度化されていったこと。また、西洋の学問を輸入するという急務が、初期の大学教育のありかたをどのように形作っていったかということ。などなど。(水村美苗さんの『日本語が亡びるとき』を読んだかたにはこの本はなおのこと面白いはずです。)また、私はアメリカの大学の仕組みから考えるとさっぱり理解できなかった「講座制」というものがいったいどのようにしてできたのかも始めて知りました。日本の大学のありかたには、私は大いに疑問を感じることが多いのですが、なにごとも、改革をするにしても、まずはなぜ今のようになったのかというきちんとした歴史的理解が必要ですので、その点で、この本はとても重要です。大学教育や学問、言論のありかたについて興味のあるかたにはおススメです。というわけで、「東大生の勉強法」の類の本を読むヒマがあったら、こちらを読んだほうが、ずっと勉強になります。