2008年11月5日水曜日

オバマ大統領のアメリカを前に

昨晩は意外に早く大統領選の結果が出て、ハワイ時間で夜8時には一通り感動と祝福の波が過ぎたものの、その後も12時近くまで、皆でテレビの分析や他の選挙結果を見たりしながら騒いでいました。オバマ氏勝利が決まった瞬間は、みんなで涙を流しながら抱き合って歓声を上げ、その後、シャンペンを飲み、手を握り合ってテレビを見ながら、それぞれが携帯電話で世界各地の家族や友達と祝福しあっていました。私にも、アメリカ本土からも日本からも、友達が電話やメールを即座に送ってくれて、この歴史的な瞬間を共有できたこと、とても嬉しく思っています。テレビに映された、アメリカ各地でニュースを聞いて老弱男女が涙しながら歓喜をかみしめている姿が本当に感動的で、オバマ氏の勝利演説を聞きながら涙を流しているジェシー・ジャクソン氏の姿はとくに印象的でした。

アメリカの中産階級や労働者階級の人々の生活の現実についての理解、大恐慌につながると一部では言われている経済危機への対応、イラクとアフガニスタンの戦争をふくめ国際情勢についてのビジョンなど、オバマ氏を勝利へと導いた要素はたくさんあると思いますが、なかでもやはり決定的だったのは、人種問題への取り組みかたと、一般市民のボランティアや献金を底力とする草の根のキャンペーン活動の成功だと思います。

「初の黒人大統領」とはいっても、「黒人」としてのオバマ氏のバックグラウンドやアイデンティティはとても複雑です。ケニア人の父親とカンザス出身の白人の母のもとに生まれ、ハワイとインドネシアで育った彼は、アメリカ南部、あるいはinner cityとよばれる、貧困や犯罪の集中した各地の都市部で暮らす黒人とは、「黒人」として経験してきていることも「黒人コミュニティ」との関係もかなり違います。彼が大統領選に立候補した当初は、黒人コミュニティのあいだからも、「黒人」としての彼のアイデンティティを疑問視する声もありました。キャンペーンの過程でそうした声は次第になくなりましたが、そのいっぽうで、現在のアメリカでは、自分の黒人としてのアイデンティティや人種問題を前面に掲げるような政治家が大統領に選ばれることはまずないと言えます。(そうした意味で、ライト牧師の人種問題についての発言は、オバマ氏のキャンペーンにそうとう大きな危機をもたらしました。その直後に、オバマ氏が有名な「人種演説」をしたのは、とても示唆的でした。)そうした状況のなかで、オバマ氏のキャンペーンは、人種問題をあえて避けることなく、黒人やヒスパニックなどのコミュニティの支持を確保しながら、自分は「黒人代表」「有色人種代表」なのではなく、一アメリカ人として、人種や階層や政党を超えた、統一したアメリカを目指すという彼のメッセージは、彼に「リベラル」とか「社会主義者」とか「過激テロリストと関係がある」とかいったラベルを貼って攻撃する共和党キャンペーンと対照的でした。それと同時に、オバマ氏の当選が、アメリカじゅうの黒人にとって、どれほど大きな意味をもつかは、説明する言葉が足りないくらいです。

そしてまた、これまで一度も政治活動に参加したこともなければ、選挙に興味をもったこともないような一般市民を、「この選挙は自分たちの将来を決定する」「自分が関わればアメリカが変わる」という気持ちにさせて、投票者登録をしたり、献金をしたり、戸別訪問をしたり、電話をかけたりといったボランティア活動に参加させる、草の根キャンペーンの力は、本当にすごいものでした。もちろん、こうした活動は、選挙運動としてはずっと昔からある古典的なものですが、今回のオバマ・キャンペーンで画期的だったのは、そうした伝統的な選挙活動と、インターネットを使った現代的なコミュニケーションの手法を実に見事に結びつけて、とくに若者層に訴えかけたことです。このブログですでに何度か言及したFacebookなどでも、この選挙への若者(Facebookを使っているのは若者だけではありませんが、基本的には若者文化の代表といっていいでしょう)の関心と熱意が明らかでしたし、MoveOn.orgといった、インターネットを使った社会運動の媒体も、実に洗練された方法で、一般市民の選挙活動参加を広げてきました。私などはまさにその手法の思うつぼで、Tシャツを買ったり献金したり、電話のボランティアをしたりしましたが、私のような人間を、歴史を変えるプロセスのごくごく一端にでも自分が参加したんだという気持ちしてくれるところが、この草の根キャンペーンのパワーです。

大統領選の結果ばかりが注目されていますが、この選挙には他にも重要な側面がいくつもあります。上院・下院ともに、民主党は席を増やし、ホワイトハウスおよび上下両院で民主党マジョリティになるのは、クリントン政権以来のことです。注目されていた、作家・批評家・左派のラジオショーホストであるミネソタ州の上院議員候補、アル・フランケン氏の選挙は、結果が僅差すぎて再集計、この投稿の時点ではまだ結果が出ていません。また、カリフォルニア州でほんの数ヶ月前に最高裁が合法とした同性愛者の結婚を違法にするという州のProposition 8も、まだ最終結果は出ていないものの、今の時点では通過しそうな気配です。というわけで、オバマ氏が当選したからといってアメリカ全体がリベラルな方向に進んでいるとは決して言えませんし、とくに経済・国際関係・環境などの面では、オバマ政権にはとても大きな課題が待ち構えています。

が、とりあえずは、新しいアメリカの到来を祝福!

1 件のコメント:

falan さんのコメント...

心からよかったなと思います。アメリカ国民にたいする祝福の気持ちもむろんですが、世界におよぼす影響を思うと、人ごとではなく素直にうれしいです。

今からこんなことを言うのもなんですが、期待が大きい分だけ、成果が上げられなければ風当たりも並大抵ではないでしょうが、オバマ氏が新しい時代を創りだすにちがいないという予感は、だれもが共有しているのではないでしょうか。

難局を乗り切るには、相当思い切った手法も必要でしょう。メディアにはすでに日本にたいしてどんな注文をつけてくるか心配する向きもあるようです。

日本には過去に「アメリカには黒人とかプエルトリコとかメキシカンとか、そういうのがおって」という「知的水準発言」をした総理大臣もいますし、いまの総理大臣は「野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」とおっしゃった方です。日本の政治家が新大統領と負けず劣らずに渡り合って、新しい世界に向かって積極的な役割を担っていく姿だけは想像できません。それだけがさみしいですね。