2009年4月19日日曜日

The Audition

『The Audition』というドキュメンタリー映画を観てきました。これは、以前に投稿で言及した、今シーズン始まった、メトロポリタン・オペラの公演を世界各地の映画館で上映するという企画の一環として上映された映画で、毎年全米で何千人もの若いオペラ歌手(志望者)の中からもっとも有望な五、六人を発掘してプロの道へと送り出すための、National Council Auditionというオーディションの2007年度の様子を追ったものです。何段階もの予選を通過して最終選抜に残った11人の歌手たちは、メトロポリタン劇場で、メトロポリタン・オペラ・オーケストラとの共演で行われる本番のオーディションに向けての1週間、メトロポリタン・オペラの指揮者や声楽コーチ、呼吸法コーチなどのもとで徹底的な特訓を受けて準備します。若手の歌手(といっても、他の楽器の演奏者と比べて、自分の身体そのものが楽器であるオペラ歌手は基礎的な技術訓練にさらなる年数がかかるので、20代前半の歌手はまだまだひよっこと思われます)一人一人が背負っている人生や夢、性格などが手にとるように感じられるし、なにしろ私はこの手のものをみるときには本人たちに代わって緊張して、本番が始まるとなるともう手に汗握ってどきどきしまうのですが、本番でのそれぞれの演奏の素晴らしさもさることながら、私にとって一番面白いのは、その一週間の準備の過程を垣間みられることです。私は、芸術作品については、完成品を見るのと同じくらい、その創造過程に関心があるので、レッスンやリハーサルや舞台裏の様子が見られるのはとてもワクワクします(メトロポリタン・オペラの映画館での上映の私にとっての大きな魅力は、舞台裏の様子が見られることにあります)。歌手たちの指導をし、勇気を与え、本番の最中も舞台の裾で息をのんで彼らを見守るメトロポリタン・オペラのスタッフであるコーチたちや指揮者(Maurizio Benini)の純粋な献身にもとても心を打たれます。最高の芸術を生み出すということがどういうことかを覗き見ることができるのと、実際にオペラ歌手としてキャリアを築くというとても小さな可能性にすべてを賭けて(クラシック音楽の世界では実際にプロとして生計をたてていくのはどんな楽器でも信じられないような小さな確率ですが、オペラ歌手の配役は、歌の腕前以外にもたくさんの要素が絡んでくるので、一段と確率が小さくなってきます)、自分のすべてを投入する若者たちの姿に、心の底から感動しました。映画の最後になって(受賞者が発表されたさらに後)明らかになる驚くべきひとつの事実があるのですが(この映画をいずれ観る人たちのために、あえて明かしません)、その事実を知ってから一連のことを反芻するとさらに心打たれます。また、映画がすべて終わったあとに、現在のメトロポリタン・オペラの最大スターである、Renee Fleming、Susan Graham、Thomas Hampsonの対談も上映され、これもまたとても興味深いです。映画館にいた人たちは皆、終わったあと感動でいっぱいの表情をして、私も含め涙のあとがみられる人もたくさんいました。

日本でもこの映画がいずれ上映されると思うので、ぜひ覚えておいて観に行ってください。