2009年6月10日水曜日

不況下のアメリカ大学の入学審査事情

まる三週間、クライバーン・コンペティションにどっぷりと浸かり、素晴らしい音楽を毎日聴き、このイヴェントを支える沢山の人々に会い、とても刺激的なときを過ごしました。おまけに、数多くのピアニストたちの中でも私がインタヴューをする機会をもった二人が優勝してしまうなんて、びっくりです。これから先は、「私のインタヴューを受けると優勝しますよ」と宣伝しておけば、たくさんの音楽家たちがインタヴューに応じてくれるかもしれません。(笑)

9日(火)の読売新聞に、辻井伸行さんについて書いた私の記事が載りました。優勝が決まった後、写真撮影やら次々に日本のメディアからかかってくる電話取材に、疲れひとつみせず快く対応している辻井さんとその周りの人々に、私もくっついて朝2時過ぎまでいたのですが、その後に「今から2時間以内に原稿送っていただけますか」と頼まれて書いた原稿です。新聞記事は何しろ字数が限られているので、あまり実のあることは書けないのですが、現在、このコンペティションのこと、そして辻井さんのことについて雑誌記事を書いているところですので、刊行になったらまたお知らせします。

このブログの読者には、クラシック音楽にそれほど興味がないかたも多いでしょうが、ここ数週間、コンペティションの話題ばかりにおつき合いいただいてありがとうございました。

気分転換(?)に、今日はまるで違う話題です。不況下、アメリカの大学がたいへんな財政難に面していることは以前にも書きましたが、それが学部生の入学審査にどのような影響を及ぼしているか、という記事が今日のニューヨーク・タイムズに載っています。

アメリカの大学の入学審査は、日本の入試制度とはまるで違います。日本のように大学や学部ごとの「入試」が行われるのではなく、高校の成績、全国共通の学力テストの成績、応募エッセイ、推薦状、課外活動、大学で勉強しようと考えている分野などが総合的に審査されるのですが、それに加えて、「学費を払う能力」という要素が複雑に絡んできます。アメリカの大学の学費は年々上昇していて、私立大学では授業料および寮や食事の費用(こうした私立大学の多くは全寮制)を含めると年間5万ドルを超えるところも少なくありません。ハーヴァードやプリンストンなど、巨額の財産をもっている私立大学などでは、need blind制度(学費を払う能力に関わらず優秀な学生に入学を許可し、払えない学生にはすべてそれぞれの必要に応じて奨学金を提供する)をとっていますが、そうした制度を完全に遂行できるほどの財産のある大学はごく一握りで、いわゆるエリートの私立大学でも多くは、少なくとも部分的にneed aware制度をとっています。こうした制度をとっているところでは、学力など総合的にトップに位置している学生はneed blindで受け入れますが、それらの学生の学費をカバーするために、その下に位置する学生たちについては、学費を払う能力をある程度考慮して入学を決める、ということになります。つまり、ぎりぎりのラインにいる学生たちは、自費で学費を払えるのであれば合格の可能性が高まるのに対し、奨学金がなければ学費が払えないのであれば不合格になる可能性が高くなる、というわけです。実にシビアで、端的に言って、経済力によって教育の機会が規定される、不公平な制度です。もちろん、大学にとっては優秀な学生に入学してもらったほうが長期的にはメリットが大きいので、多くの大学はなるべくこの制度を是正し、優秀な学生には奨学金を提供しようとしていますが、不況によって基本財産が大きく減ってしまった大学は、授業料収入を増やしかつコストを削減するために、一時的に入学審査におけるneed aware度を拡大する方針をとっているところが少なくありません。この記事で取り上げられているのは、オレゴン州にあるエリートのリベラル・アーツ・カレッジであるReed Collegeですが、他の多くの大学でも同様の手段をとっています。

大学教育は経済・社会的地位と密接に結びついていますし、大学によって教育の質(授業の内容といったことだけでなく、大学生活を構成するあらゆる側面を含む)がかなり違うというのは厳然とした事実ですが、このように、経済力によってさらに教育の機会が規定されると、長期的に社会全体のなかでの経済的不均衡がさらに再生産・強化される結果となります。大学教育がすべて公的なものになるとか、入学審査制度が根本的に変えられるとか、アメリカではまず考えられないことが実現されないかぎり、この状況には解決策がないのでしょう。

ところで、ちょっとだけ音楽の話題に戻って、今週13日(土)に、私の仲良しのピアニスト、平田真希子さんのコンサートが現代美術館「カスヤの森」であります。前にここでご紹介した、雑誌『考える人』の「ピアノの時間」特集のアンケートで私がCDを紹介したピアニストです。ちなみにMusicians from a Different Shoreにも、彼女のことが何カ所にも出てきます。今年は私の日本滞在と彼女の日本での演奏が重ならないので、私自身聴きに行けないのがとても残念なのですが、代わりにみなさんに行っていただけたら嬉しいです。どうぞよろしく。

場所:「カスヤの森」現代美術館 (JR横須賀線、衣笠駅より徒歩12分)
http://www.museum-haus-kasuya.com/index00.htm

時間:6時半開演、休憩をはさんで2時間弱のプログラム

曲目:ベートーヴェン、ロンドハ長調、作品51−1、モーツァルト、イ短調のロンド、ドビュッシー「映像一巻」、ラヴェル「優雅で感傷的なワルツ」、スクリャービン、他

ピアニスト:平田真希子、http://makikony.cool.ne.jp/

ティケットのご予約、ご質問: (045)826—2348、またはメール、jhirata@c3-net.ne.jp)

1 件のコメント:

a pianist さんのコメント...

おかげ様で、演奏会は大盛況のうちに終わりました。聴衆が会場に入りきらず、
入口の外にイスを並べて聞いていただきました。真里さん、本当にありがとう。