お茶の水のカザルスホールが閉館になるというニュースを読みました。とてもとても残念なことです。本当にいいホールなので、東京近辺のかたは閉館になる前に是非一度コンサートに行ってください。オルガンのコンサートもあるようです。
今年はリンカーンとダーウィン(この二人は同じ誕生日)、そしてメンデルスゾーンの生誕200周年です。それにちなんでコンサートやCDなどのプロジェクトがいろいろなされているようですが、ナショナル・パブリック・ラジオでのバイオリニストのAnne-Sophie Mutterのインタビューはなかなかよかったです。彼女のCDはこちら。
ついでにナショナル・パブリック・ラジオで紹介されているもうひとつのCDは、ピアニストHelene GrimaudのバッハのCD。アメリカではCD発売は2月10日なのですが(日本ではもう発売されています)、発売日まではなんとこのナショナル・パブリック・ラジオでCDの中身がまるごと聴けます。私は今ちょうどこのCDの目玉と言えるブゾーニ編曲の「シャコンヌ」をせっせと練習しているところです。バッハの厳粛で高貴で悲しくもありきらびやかでもあるバロックのメロディーが(もともとバイオリンの独奏曲として作曲されたものです)、ブゾーニの手によって信じられないくらい豊かな色彩とドラマに満ちたロマン派的なピアノ曲となっていて、本当にものすごい曲です。私が弾くと、ひたすら気が狂ったような曲に聴こえてしまうところが、グリモーの演奏では、抑制が引き立たせるドラマ性というものが見事に伝わってきます。
私の成長にとても重要な役割を果たした人物の一人が、今は故人となった私の子供時代のピアノの先生です。自らは音大で勉強したこともなく演奏をする人でもない、という意味では「正規の」音楽家とはいえない人で、オーディオ機器についての執筆活動をしたり音響建築をしたりしながら、ピアノを教えているというとても変わった人物だったのですが、先生としては本当にすばらしい人でした。私はとくに大事にしてもらったので、土曜の午後にあったレッスンは毎回3時間を超えました。技術的なことも厳しく訓練されましたが、毎回夕暮れどきになると、「人間の成長のためには、音階や練習曲を弾くことよりもずっと大事なことがある」と言って、西の空を見渡す部屋(先生のおうちは、品川区の丘の上にありました)に二人で椅子を並べて夕日が地平線のかなたに降りてゆく様子をレッスンの最中に15分くらい眺めました。また、バッハのプレリュードやフーガを弾き始めるときは毎回、リヒテル、グルダ、ブレンデル、グールドなどのレコードをレッスンの最中にじっくり聴き比べる、ということもしました。私は子供のときはそれしか知らないので、ピアノのレッスンというものはそういうものなんだろうと思っていましたが、今考えてみると、小学生相手になんと贅沢なレッスンをしてくださっていたのだろうと感動します。