今日のニューヨーク・タイムズの「スタイル」セクション(ファッションとか恋愛とか風俗などの「軽め」の話題を集めたセクションですが、さすがニューヨーク・タイムズだけあってこういう欄の記事も相当読み応えがあります)に、とても興味深い記事が二本あります。
一本めは、現代のレズビアン・コミューンについての記事。1960年代末から1970年代にかけてのいわゆる「第二次フェミニズム」の時期に、ラディカル・フェミニズムや分離主義フェミニズムに関わり、自分がレズビアンであると「カム・アウト」した女性の多くが、全米のいろいろな場所でレズビアン女性だけのためのコミューンを作って共同生活を送りましたが、さまざまな問題をめぐってのコミュニティ内での分裂やまた社会全体の変化に伴って、徐々にそうした別個のコミュニティの必要性も吸引力も減少してきました。しかし現在でも、メインストリーム社会とは別の価値観や論理で動く、男性や異性愛者の女性たちとは別個のコミュニティで、自分たちだけの生活を送りたいというレズビアンの女性は存在し、この記事はそうした50代から70代の女性たちが暮らしているフロリダのアラパインというコミュニティを描いたものです。都会から離れた森の中で女性たちは、土地の管理から家の修復、動物の世話までなにもかも自分たちでし、保守的な住民の多い地域でありながら隣人たちともきわめて友好的な関係を保ちながら暮らしています。コミューンの自立性を保つため、コミューンの内と外にははっきりとした物理的・象徴的境界が引かれており、コミューンのメンバーが男性の恋人やパートナーを作った場合には、その人は自分のぶんの土地を売ってコミューンを去らなければいけないという決まりになっています。また、親戚を含め男性による訪問については厳しいルールがあり、異性愛者の女性による訪問をどれだけ許容するかについても、メンバーのあいだで議論がされるということです。都会から離れた森の生活では経済的に自活していくことが困難であることから、若い女性がコミューンに入りにくいという現実問題もあり、また、外界から隔絶された暮らしは現実社会への参加を拒絶しているといった見方もできますが、生活を共にするレズビアン女性たちが自分の「家族」であり、感性を共有する女性同士の暮らしこそが自分たちの「現実」である、という女性たちの姿が心を打ちます。"To me, this is the real world"という一女性の声が感動的です。コミューンの女性たち自身の声や写真がたくさんあるマルチメディアのコーナーもありますので、是非見てみてください。
もう一本は、作家・テレビプロデューサーの女性によるエッセイ。あるきっかけで北京に住むジャーナリストの男性とメールをやりとりするようになり、数カ月のメール交換を続ける過程で相手についていろいろな空想を膨らませ、ついに「北京でフリーランスの仕事ができた」とウソをついて彼に会うために北京まで出かけて行った、という話です。それがどのような結末になったかは敢えて明かしませんので、興味のあるかたは自分で読んでください(とても読みやすい英語ですので、そんなに苦労なく読めることと思います)。オンライン・デーティングに代表される、インターネットやメールを介しての出会いに特有の感情の動きや、大人同士の恋愛や交際のありかたについて、なかなか考えさせられると同時に、笑ったりしんみりしたりしながら楽しめる記事です。