ハワイ大学アメリカ研究学部教授、吉原真里のブログです。『ドット・コム・ラヴァーズーーネットで出会うアメリカの女と男』(中公新書、2008年)刊行を機に、アメリカのインターネット文化や恋愛・結婚・人間関係、また、大学での仕事、ハワイでの生活、そしてアメリカ文化・社会一般についての話題を掲載することを目的に始めました。諸般の事情により、2014年春から2年半ほど投稿を中止していましたが、ドナルド•トランプ氏の大統領選当選の衝撃で長い冬眠より覚め、ブログを再開することにしました。
2009年2月5日木曜日
Helvetica
友達にすすめられて、『ヘルベチカ 』というドキュメンタリーをDVDで観ました。ヘルベチカという名で知られている書体デザインについての話なのですが、これはとても面白い!視覚デザインについてなにも知らない私は、正直なところ、ひとつの書体について一時間以上もの映画ができるものかと懐疑的だったのですが、観てみると、これまでまるで気に留めたこともなかったことについて、「おー!」と開眼します。モダンでシンプルで「中立的」なヘルベチカは、1950年代にスイスで開発されて、現在では世界でもっとも使用度の高い書体のひとつなんだそうです。そんなこと考えてみたこともなかったですが、そう言われてみると、確かにニューヨークの地下鉄の駅のサインや道路標識、役所のサインや企業のロゴなどではヘルベチカがよく使われているし、このブログの文字もデフォルトでヘルベチカになっています。考えてみると私の博士論文もヘルベチカで書きました。書体のデザインを職業にする人がいるなんてことすら考えたこともなかったですが、このドキュメンタリーを観ると、どんな人たちがどんなことを考えてデザインするのかも垣間見られるし、また、ものすごく微細なことがとても大きな効果をもつということもわかります。そしてやはり、書体のデザインを職業にするような人は、『ドット・コム・ラヴァーズ』181−182頁で説明した「ニューロティック」な人たちであることがわかって笑えます。「ニューロティック」にもいろいろありますが、この人たちは実に愛すべき「ニューロティック」です。とにかく、このドキュメンタリーを一度観たら、街を歩きながらでも建物のなかでも、文字のデザインに注意を払わずにはいられなくなります。面白いので是非どうぞ。