2010年1月27日水曜日

オバマ大統領一般教書演説 & ハワード・ジン氏逝去

オバマ大統領の一般教書演説は、なかなかよかったと思いました。就任後1年たっても、失業率は上がりこそすれ下がらず、景気対策もなかなか目に見えた成果をあげず、戦争は続き、健康保険法案はなかなか実現しない、といった状況のなかで、議員たちそして一般国民の信用と協力を再び喚起し、この先もしばらくは続くであろう困難に立ち向かうための希望を与えるという意味では、オバマ氏特有の威厳がありかつインスピレーショナルな演説スタイルは有効だったと思います。党派政治に明け暮れて大事な仕事を遅らせてしまう議会に対してなかなか厳しいコメントもありましたが、演説のあいだの各党の反応(一般教書演説というのは、演説をしている大統領本人だけでなく、会場で聴きながら立って拍手をしたりしなかったりという議員その他の政治的パフォーマンスの場でもあるので、演説の内容自体がそれほど目新しくなくても、見ていてなかなか面白いのです)を見ていると、二大政党による議会政治の困難さがよくわかります。

この演説については、日本のメディアでもいくらでもコメントが出るでしょうが、日本ではおそらくあまり報道されないであろうもうひとつのニュースが、歴史家ハワード・ジン(Howard Zinn)氏逝去の知らせ。立派なひとが亡くなりました。ハワード・ジン氏は、左派の視点からのアメリカ史を語った『People's History of the United States』がミリオンセラーになった歴史家で、スペルマン・カレッジというアトランタの黒人女子大学で教鞭をとったあと(大学が公民権運動に積極的に参加しないことを公然と批判したことなどを理由に解雇された)、ボストン大学で教授をしながら、ベトナム反戦運動や労働運動などの第一線で運動家としても活動を続けました。People's History of the United Statesは、あまりにも明確な政治的立場から書かれた歴史であるがゆえに、客観性に欠けると批判する歴史家もいるものの、メインストリームの歴史書にはない視点から、新しい形のアメリカ史を提供しているということで、大学の教科書としてもひろく使われ、大きな影響力を与えています。日本語で入門を読みたいひとはこちらの『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』〈上〉1492~1901年〈下〉1901~2006年をどうぞ。