ハワイの州予算の大幅カットの必要に迫られ、公立学校の授業日数が年間17日間減らされ月に2回は学校が休みになるという、とんでもない事態になっていることはずいぶん前の投稿でお知らせしましたが、教員組合と州知事の交渉が暗礁に乗り上げてまったく先が見えないことに業を煮やした市民グループが、先週水曜日からリンダ・リングル知事のオフィスで座り込みを始めました。座り込みをする許可は得られたものの、夕方4時半から朝7時半までは外部から人が入ったり、中にいる人がトイレに行くために外に出てから戻ってくることが許されないため、夜のシフトを買って出た人たちは、さまざまな工夫をして夜を明かしたらしいですが、金曜夜から月曜朝までずっとトイレを使わないことはさすがに無理があるため、週末は座り込みの場所を州議事堂の向かいにある知事邸前の大通りに変更し、夜を徹して通り行く車や歩行者、そしてもちろん知事に「学校を救おう!」とのメッセージを送っています。
この運動を組織しているのはSave Our Schools-Hawai‘iという市民団体で、私の大学の同僚も中心的リーダーとして活動しています。実際に毛布持参で夜を徹しての座り込みをしたり、何時間も道路脇でサインを掲げている人たちは、自分の子供が学校で学ぶ機会を減らされている親たちももちろん多いですが、自分には子供がいなくても、教育という社会投資を減らすことがハワイの将来にもたらす意味について憂慮する人々も何人もいます。また、弁護士や大学教授などとしてフルタイムで仕事をしながら複数の子供を育てている人たちが、仕事が終わり次第かけつけて夜を徹してこうした活動をしている姿(がFacebookを通じてたくさん送られてきます)には、本当に心打たれます。そして、そうした人々は、学校に行けない子供たちを連れて参加していて、幼稚園や学校に行けない子供たちが「私は勉強したい!」といったサインを持ってこの社会運動に参加している姿が印象的です。この親や子供たちの直接行動は、地元メディアだけでなくニューヨーク・タイムズを初めとする全国・国際メディアでも報道されています。
ハワイで私の周りにいる人たちは、たいてい皆が左翼活動に普段から積極的に参加している人たちで、抗議デモ集会やストのピケットに赤ん坊や子供を連れて参加することが多いのですが、子供が物心ついた頃からそうした場にしょっちゅう連れて行くことで、子供が政治参加や社会運動といったものを学ぶことが重要と考えているわけです。また、私の友達のなかにも、1960年代から1970年代の社会運動の第一線で活動をしていた親にそうした場に連れて行かれて育った、という人が何人もいます(そういう人たちをred diaper babyと言います)。
話はちょっとそれますが、そうした現場の社会教育が功を奏して、献身的な社会活動家として成長する人も多いいっぽうで、なかにはそうした親への反発で親とは正反対の政治思想を信奉するようになる若者もいます。私の仲良しの友達の息子は、ある時期からやたらと保守的な政治理念を唱えるようになり、とうとうYoung Republicans Partyに入会してしまいました。親への反発からくる一時的なものだろうと、周りは面白可笑しい思いで見ています(親への反発が、身体のあちこちにピアスをしたり麻薬をやったりというのでなく、共和党員になるという形をとるというのがなんだか可笑しい)が、日常的に家でティーンエージャーの共和党員(しかもその息子はとても口が達者でかつ知識豊富で、エリート高校の弁論部にも入っているので、ものすごい勢いで議論をする)と大議論を交わさなくてはいけない親としてはたまらないようです。(笑)
それにしても、日本ではゆとり教育への反省から教科書が厚くなったり、土曜日の授業の復活が検討されていたりするのに、ハワイではただでも少ない授業数をさらに減らして、いったいこれからの社会を担う人たちをどうしようというのか、本当に頭を抱えたくなります。市民たちの直接行動が実を結んで、早期に普通の教育活動が再開できることを願っています。