ミドルクラス層のための減税や失業者への手当の延長と引き換えに、ブッシュ政権下に施行された高所得者層への減税策を2年間延長する、というオバマ大統領の案に、多くの民主党議員そしてオバマ大統領を支持してきた国民の多くが、大きな落胆と憤りを示しています。私自身も、いくらオバマ大統領のビジョンが正しくても政治プロセスというのは複雑なものだし、ここまで悪くなった経済というのは急によくなるものではないしと、さまざまな点において譲歩や妥協を強いられてきたオバマ政権に対し、辛抱と期待をもち続けてきましたが、これはさすがにイカン。高所得者層への減税延長は、民主党が綱領として掲げてきた理念の根本を揺るがすもので、ミドルクラスの各家庭にせいぜい数千ドルにしかならない減税と引き換えに、億万長者たちに巨額の減税を提供し続けるというのは、どう考えてもおかしい。この政策を正当化するのは、高所得者層への減税を延長することは景気対策になり、また、これと引き換えに、ミドルクラスや失業者への支援が手に入れられるのならば、今の現実において多くの国民を支援することになる、という理屈らしいけれども、この減税策で得をする高所得者層は、それで節約できるぶんのお金を、ものを買ったり人を雇ったりすることに使うわけではなく(もちろんそれもするでしょうが)、その財産をより増やすための資産運用に使う可能性が高いわけで、それが国民の生活や経済全体に直接及ぼす影響というのは比較的少ないはず。高所得者層への減税をやめて、財政赤字を減らし、手元のお金は日常的な出費にまわすミドルクラスにより多くの現金がまわるようにすれば、景気が向上するはず。というのは、数字に弱く経済に疎い私が単純に思うことですが、こう思うのは私ばかりではないということが、この政策を強く批判するさまざまなメディアで明らか。なかでも、左派メディアの象徴とされているコメンテーターのKeith Olbermannのコメントは、その激しさと鋭さにおいて圧倒的。(こうしたネット上の動画は、アメリカの外では見られないことが多いので、日本の皆さんには見られないかもしれません。あしからず。)左派のオンライン・メディアのSalon.comに載っているブログ論説も興味深いです。
先月の選挙で上院の過半数が共和党にわたった結果、高所得者層への減税廃止案が上院を通過する見込みがなくなってしまったために、譲歩・妥協策としてオバマ大統領が共和党のリーダーたちとともにこの案を出したわけですが、これでは、なんのための民主党政権なのかわからなくなってしまう。いくら共和党に譲歩をしたところで、核となる共和党支持者層が民主党にまわるわけはなし、これによって民主党支持者がオバマ大統領から離れてしまったら、2012年のオバマ大統領再選は難しいのではないかと思われます。あー、本当に困ったことになってきました。
ここ2日間の話題は、これに加えて、昨日は民主党の元大統領候補、ジョン・エドワーズの妻、エリザベス・エドワーズが亡くなったというニュース。私は、選挙選の初期には、経済・社会政策においてエドワーズが一番よいと思っていましたが、妻ががんで闘病中の不倫騒ぎで彼の政治生命が終わってしまい、いろんな意味で悲しいやら呆れるやらでした。今回、エリザベス・エドワーズについての記事をいろいろ読んで、私はなんだか知り合いが亡くなったような悲しみを覚えています。