2010年12月23日木曜日

When the Levees Broke

DVDで、スパイク・リー監督の四話にわたるドキュメンタリー映画、When the Levees Brokeを観ました。タイトルを直訳すれば「堤防が崩れたとき」。2005年夏にルイジアナ州ニューオーリーンズ周辺を襲ったハリケーン・カトリナ(『現代アメリカのキーワード 』に項目があります)についてのドキュメンタリーなのですが、これはすごい。カトリーナの災害は、ハリケーンそのものによる自然災害もさることながら、人種を軸に地域内に極端な社会格差を生んできた南部都市の歴史的背景、連邦政府を筆頭にする各種公的機関の対応のひどさといった、社会によって作られた人的災害という側面が大きかったことは指摘されてきましたが、このドキュメンタリーはそれを実に説得力をもって示しています。当時のニュースに使われた映像や写真を織り交ぜながら、ハリケーンの被害者となった数多くの市民たち、救出隊員、ニューオーリーンズ市長、ルイジアナ州知事、土木工学のエンジニア、ジャーナリスト、歴史家など、たくさんの人たちのインタビューを集め、ナレーションもなく淡々とした作りでありながら、強烈なメッセージが伝わってきます。ハリケーン地帯であるこのエリアでは、堤防がじゅうぶんな強度をもっていないこともわかっていたにもかかわらず、補強がされないままだったこと。いかなる威力をもってハリケーン迫っているかも警告されていたにもかかわらず、多くの人々が避難できない状態で残されたこと。実際にハリケーンが襲い数多くの死者や負傷者が出て、また何万人もの人が住居を失った後でも、連邦緊急事態管理庁(FEMA)をはじめとする連邦機関は何日間も対応をしなかったこと。そして、ハリケーン後数カ月たっても人々が生活を再開できるための手助けが届いていない(この映画が公開されたのは2006年)ということ。その背景に、人種と階層が否定しがたく結びついているということ。そうしたことが、多様な人々の姿と話から伝わってくるのですが、それと同時に、ジャズやマルディグラに代表される黒人文化やクレオール文化がニューオーリーンズ特有の歴史文化を形づくってきて、人々がその街に誇りをもってしがみついてでもそこで暮らし続けようとしていること、大切に築いてきた街が跡形もなく戦場のようになってしまった後でも自分たちの文化と暮らしを再開しようとするそのエネルギーに、圧倒されます。出てくる人たちの実に多様な姿を見るだけでも、アメリカについてたくさんのことを学ぶことができます。日本では、インポート版のDVDしか手に入らないようですが、見る価値はおおいにあるので、ぜひどうぞ。